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オープンイノベーションとはいうけれど、大手と組んで秘密は守れる?いまさら聞けないNDAの結び方(1)(3/3 ページ)

オープンイノベーションやコラボレーションなど、社外の力を活用したモノづくりが、かつてないほど広がりを見せています。中小製造業やモノづくりベンチャーでも「大手製造業と手を組む」ことは身近になってきました。でも、ちょっと待ってください。その取引は本当に安全ですか。本連載では「正しい秘密保持契約(NDA)の結び方」を解説していきます。

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開示する情報の特定

 まず、江戸氏が考えておかなければならないことは「どのような技術情報を第1回目の打ち合わせで開示するか」ということです。以下に、具体例を挙げて考えてみましょう。

発表済みの情報

 既に発表済みの情報はどうでしょうか。こうした情報は既に公に知られている内容になりますので、第1回目の打ち合わせで開示することには問題がなさそうです。

“さわり程度”の情報

 次に、小型化技術の“さわり程度”の情報はどうでしょうか。小型化技術の内容は大江戸モーターが開発した非公開の秘密情報です。たとえ“さわり程度”のものでも、開示するか否かは慎重に検討すべきではないでしょうか。

 一方で「大企業と協業の検討を円滑に進めて今回のビジネスチャンスを生かす」という観点からは“さわり程度”であれば開示してもよいという判断もあり得ると思います。ただ、“さわり程度”であっても非公開情報を知らせるということは、自社の不利に働く可能性があるということは意識しておく必要があります。

技術全体の開示

 では、モーター小型化の技術全体を開示するというのはどうでしょうか。これについては、答えは「否」でしょう。なぜなら、協業するか否かの見通しが立たない中で自社技術の心臓部ともいえる秘密情報を開示することは、あり得ません。

 この秘密情報を無断でGFGモーターズに利用されてしまう可能性を考える必要があります。また、秘密情報を教えたことで、CFGモーターズ側で「大江戸モーターと組んで小型モーターを実用化する」というモチベーションを失う可能性もあります。従って、モーターの小型化の技術全体の開示は、大江戸モーターにとって非常にリスクの高い選択となります。

開示する情報の特許出願についての確認

 さて、江戸氏は、悩みながらも第1回目の打ち合わせで開示する情報を決めました。そして、この情報に、大江戸モーターが開発した小型化技術の一部の技術情報を含めることにしました。

 この技術情報は社外の人間には初めて開示するものですが、小型化技術の一部でありこの技術情報から小型化技術全体が露呈することはありません。そのため、江戸氏は「開示しても問題なし」と判断しました。江戸氏は「このくらいの情報は開示しないと、今回のビジネスチャンスを逃してしまう」と考えています。

 さて、ここまで決断した江戸氏ですが、次は、何を確認・検討すべきでしょうか。

 江戸氏は、第1回目の打ち合わせで、大江戸モーターの小型化技術の情報の一部を社外に初めて開示します。次に確認すべきは、この情報(以下「情報A」とします)について「自社で特許出願を済ませているか否か」です。

 なぜ、特許出願を済ませておく必要があるのでしょうか? その理由には以下の3つがあります。

  1. 先方から開示される情報とのコンタミネーション(情報汚染)を起こさないようにして情報Aが自社の技術情報であることを明確にするため
  2. 情報Aに関するアイデアを盗まれるという無用の紛争を回避するため
  3. 先方が自分たちと組まなければ、求める技術が実現できないという状況を作り出すため

 特に3つ目の理由が最大の目的となります。大江戸モーターと組むべき理由を作り出すということにも言い換えられるでしょうか。

 さて、今回はここまでにしておきましょう。次回は、この「特許出願が必要な3つの理由」についてより詳しく解説します。

第2回:「NDAを結ぶ前に「特許出願」を行うべき3つの理由


筆者プロフィル

柳下彰彦(やぎした あきひこ)

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 化学メーカーにて、電子デバイスの商品開発および研究開発に従事後弁理士資格を取得し、同社知的財産部にて、国内外の出願関連業務、国内外の渉外業務などに従事。その後、弁理士として独立し、国内外の出願関連業務、国内特許の鑑定などを行う。

 慶應義塾大学理工学部計測工学科卒業。慶應義塾大学大学院理工学研究科物質科学専攻修士課程修了。桐蔭法科大学院法務研究科修了。2011年より弁護士法人内田・鮫島法律事務所に入所し、現在に至る。

 2000年に弁理士試験合格、2009年に司法試験合格、2010年弁護士登録、2013年弁理士再登録。


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