T細胞が成熟する過程で「正の選択」をする自己ペプチドを解明:医療技術ニュース
東京大学は、胸腺のタンパク質分解酵素が、T細胞が成熟する過程で非自己を認識できる有用なものだけに選別される「正の選択」を促進する、特殊なタンパク質断片を作り出すことを明らかにしたと発表した。
東京大学は2015年6月23日、胸腺のタンパク質分解酵素が、T細胞が成熟する過程で非自己を認識できる有用なものだけに選別される「正の選択」を促進する、特殊なタンパク質断片を作り出すことを明らかにしたと発表した。同大大学院薬学系研究科の村田茂穂教授らの研究グループによるもので、同日に「Nature Communications」のオンライン版で公開された。
人間の免疫システムは、自己と異物などの非自己を識別し、身体に侵入する病原体などの非自己を退治する。こうした機構の中心となるのがT細胞で、その集団は胸腺における教育を経て形成。1種類の抗原(異物の断片)を認識できる無数の種類の未熟なT細胞が作り出された後、非自己を認識できる有用なT細胞を生存させる「正の選択」と、自己を攻撃する有害なT細胞を排除する「負の選択」を受けて、選別されるという。
今回、同研究では、未知の物質を同定できる質量分析法を用いて、正の選択に重要となるタンパク質分解酵素の胸腺プロテアソームが、特殊な配列を持ったペプチドを作り出すことを明らかにした。さらに、そのペプチドが未熟なT細胞の持つT細胞受容体とゆるく結合することで未熟なT細胞に生存シグナルが付与され(正の選択)、病原体などの非自己は攻撃しても、自己は攻撃しない有用なキラーT細胞へ分化させることも分かった。
同成果は、正の選択の初期過程の詳細な分子実態を初めて明らかにしたもので、今後は感染症、がん、免疫関連疾患の治療法開発が期待されるという。
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