インダストリー4.0がいよいよ具体化、ドイツで「実践戦略」が公開:インダストリー4.0(6/6 ページ)
注目を集めるドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」。この取り組みを具体化する「実践戦略」が2015年4月に示された。同プロジェクトに参画するドイツBeckhoff Automationグループに所属する筆者が解説する。
オープンな互換性と国内統合
経済合理性の帰結としてモノづくりの「デジタル化」が進み、インダストリー4.0などの諸外国での取り組みにより生産システムの「つながる化」が加速する。これが事実なら日本の製造業の競争力維持のカギとなるのは、世界に誇る日本の材料や要素技術の個別の強みを統合する戦略だ(関連記事:「ロボット新戦略」が生産現場にもたらす革新とは?)。
これを実践する上で避けて通れないのは次の2つの要件を満たす統合プラットフォームの整備である。
- (A)国産の生産財を組み合わせて生産システムをオープンに水平・垂直統合する
- (B)諸外国のオープンなスマートファクトリ規格との互換性を確保する
産業用ロボットや工作機械などの装置連携による生産性の向上は、現在の日本においては、同一のサプライヤからの装置を組み合わせるか、大企業が規模の経済を生かして一品物のインテグレーションを維持できるケースにおいては、既にインダストリー4.0が目指すコンセプトに近いレベルのものが実現可能となっている。これをサプライヤの枠を超えて実現できるようにし、国内の中小企業も同様の生産性向上の恩恵に授かれるようにするのが(A)の趣旨だ。
また、グローバルな勝負に勝ち抜くためには競争相手の懐に飛び込む仕掛けも必要だ。日本の規格を国外に普及浸透させることも当然必要だが、一方的な押し付けでは「All or Nothing」となり、取れる市場が限定されてしまう。上から下まで全部取れない時も、基幹系を取る場合には制御系に諸外国の装置を取り込めるようにし、制御系を取る場合には諸外国の基幹系につながる仕様としておく必要がある。これが(B)の趣旨である。
ORiNでAll Japanを組織化する
そこで、再び出てくるアイデアがORiNの活用である。国内のあらゆる機器が取りあえずORiNにつながっておけば(A)は実現できる。さらに、ORiNの機能拡張を継続することで、例えば日本発の「つながる工場」標準化の団体であるIndustrial Value Chain Initiative(IVI)の成果などの競争領域を手元に残しつつ、諸外国の規格との差別化を行うことも可能だ(関連記事:「日本版インダストリー4.0」の萌芽か!? 「つながる工場」に向けIVIが始動)。精度や品質を高めるため、特定材料のプロファイルを活用したサプライチェーンと生産システムとの連携などもORiN陣営で深めておくとさらに有効なものとなるだろう。
また、前述の通りORiNは上下でOPC-UAにも対応しているため(関連記事:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【後編】)、アプリケーションゲートウェイやプロバイダーを適切に準備すれば、ORiN機器をインダストリー4.0の基幹系システムに接続したり、インダストリー4.0コンポーネントをORiNシステムに取り込んだりすることができる。
国内各社のシステムはORiNでつなげておき、外部とのインタフェースとしてORiNを活用すれば、ORiN経由であらゆるシステムと自由につながることが可能になる。インダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)や他国が打ち出してくる規格に対しても、このような対応は有効なはずであり、これらの異なる規格の合従連衡が進んだとしても、それに振り回されるリスクを低減できる。
ただ、(A)も(B)も個別に取り組むにはあまりに大掛かりで一般個社の手に負えない話であるともいえる。そもそもこの取り組みができるほどの体力のある大企業は「クローズ戦略」で勝ち抜こうとするため、動機付けが得られないという「デッドロック」となっているのが現状の偽らざる実体だ。経済政策で悩まされる「流動性の罠」が実は形を変えて製造業における成長戦略の行く手も阻んでいることを認識し、どう打破していくかを産官学が力を合わせて答えを出す必要があるだろう。これはもはや技術の話ではなく政治の話なのだ。
ハノーバーメッセ2015にて再起動した「Industrie 4.0 Platform」は、インダストリー4.0のビジネスモデルともいわれる「ユースケース」を2015年秋のドイツITサミットにて公開すべく、その取りまとめに追われているという。製造業における競争原理の変化に伴い各セグメント間の利益分配率も変わっていく。製造業の付加価値創造の場が上位のサービスにも拡がっていく中で「データプラットフォーム」をつかんで勝ち残るのはどの国のどの企業となるのか。もし「Facebook for Machines」をフェイスブック自身が打ち出して来たらそれをどう迎え撃つか、各国の取り組みから目が離せない状況が続きそうだ。
※【謝辞】本稿は執筆にあたりJST研究開発戦略センター フェローの澤田朋子氏にご協力いただきました
筆者プロフィル
川野俊充(かわの・としみつ) ベッコフオートメーション 代表取締役社長
東京大学理学部 物理学科 卒業、カリフォルニア大学バークレー校 ハース経営大学院経営学修士、慶應義塾大学SFC研究所 上席所員(訪問)。「EtherCAT」開発元のベッコフオートメーションにて、ソフトウェアPLC/NC/CNCのTwinCATによるPC制御ソリューションの普及に努めている。
第4次産業革命は日本の製造業に何をもたらすのか――「インダストリー4.0が指し示す次世代工場の姿」コーナーへ
インダストリー4.0がもたらす製造業の変化
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