IoT標準化における半導体メーカーの攻防:家庭内IoT標準化を巡る動向(後編)(3/3 ページ)
前編では「Nest」を活用し、スマートホーム市場のプラットフォームを狙うGoogleの戦略について解説した。後編ではGoogleのもう1つのアプローチ方法を紹介するとともに、相次いで登場したスマートホーム分野でのライバルの動向について解説する。
確実に“ホーム”を狙いに行くSamsung
これまでQualcommとIntelのIoT標準化に向けた取り組みを紹介したが、もう1社、注目すべき動きを見せているのがSamsungだ。Samsungはこれまでスマートテレビをハブとして自社の家電を連携させスマートホームを実現しようとしていた。しかし、前編で示した通り、自社製品のみで統一されたスマートホームは成功が難しく、Samsungのスマートホーム構想は成功には至らなかった。
この経験を受け、Samsungは大きな方針転換を行った。2015年のCESでCEOのBoo-Keun Yoon氏は「IoT市場の成長のためには業界間の協業が不可欠である」と述べ、オープンエコシステムの重要性を強調し、同社のIoT向けチップと機器をオープン化することを発表した。この言葉が示すように、スマートホーム関連企業のSmartThingsを2014年8月に買収している。
SmartThingsは、スマートホーム向けのハブや各種センサーを提供している他、照明スイッチやドアロックなど家庭内のさまざまネットワーク対応デバイスをモバイルアプリから監視・制御可能なオープンプラットフォームを展開している。Yoon氏は今後、全てのSamsung製品をオープンかつ他社製品と互換性のあるプラットフォーム上で構築するとしている。
しかし一方で、Samsungは前述のOICの設立メンバーでもある。また、Thread Groupにもその名を連ねている。これは、複数の規格が乱立し、何が主導権を取るか見通しが立たない現時点において、複数の標準化団体に参加することによって各団体の動向を把握するとともに、各社との連携を強化することで自社のプラットフォームの価値を高め、確実にスマートホーム市場を取りに行こうとするSamsungの戦略が背景にあると考えられる。Samsungの主力商品の1つは家電だ。自社製品の販売拡大のためには、スマートホーム市場を確実に抑える必要があるからだ。
半導体メーカーがIoT標準化に向け動き出す理由
QualcommやIntelがスマートホームおよびIoT市場への参入する目的も、両社の主力事業である半導体の販売促進のためだ。
Intelはデータセンターやサーバ向け半導体においては最大手であり、PC向け半導体も約80%のシェアを占めるなど独占的な地位にいる。しかし、近年のPC販売不調によりPC向けの半導体の先行きは不透明だ。一方でスマートフォンの急速な普及により拡大したモバイル端末向け半導体分野においてはQualcommが60%以上のシェアを占めており、Intelはこの分野でQualcommに大きく水をあけられてしまった。
2014年ランク | 2013年ランク | 社名 | 2014年売上高 | 2014年シェア | 2014売上高 | 2014年対前年成長率 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | Intel | 50840 | 15.0% | 48590 | 4.6% |
2 | 2 | Samsung Electronics | 35275 | 10.4% | 30636 | 15.1% |
3 | 3 | Qualcomm | 19194 | 5.6% | 17211 | 11.5% |
4 | 4 | Micron Technology | 16800 | 4.9% | 11918 | 41.0% |
5 | 5 | SK Hynix | 15915 | 4.7% | 12625 | 26.1% |
6 | 6 | 東芝 | 11589 | 3.4% | 11277 | 2.8% |
7 | 7 | Texas Instruments | 11539 | 3.4% | 10591 | 9.0% |
8 | 8 | Broadcom | 8360 | 2.5% | 8199 | 2.0% |
9 | 9 | STMicroelectronics | 7371 | 2.2% | 8082 | -8.8% |
10 | 10 | ルネサス エレクトロニクス | 7249 | 2.1% | 7979 | -9.1% |
- | - | その他 | 155679 | 45.8% | 147883 | 5.3% |
- | - | 合計 | 339811 | 100% | 314991 | 7.9% |
そのような中、新たに「IoT」という市場が活性化し始めた。これまで“dumb”とされていた端末がインターネットに接続されることにより、端末そのものに”brain”が搭載されてくると考えられている。そしてその数は2020年までに500億ともいわれおり、半導体メーカーが狙っているのはそのIoTデバイスに搭載される半導体チップであり、この市場を活性化させるために標準化に向けた取り組みを行っていると考えられる。
IntelはMWCでのインタビューで「IoT標準化における主導権を取ることが主目的ではないのだ。ユーザーが意識することなくあらゆるモノがつながることが重要なのだ。OICはThread上で動作することも可能であるし、Works with Nestとも連携が可能だ」と発言しているし、QualcommのVPであるRob Shandhok氏も「いずれかの時点でOICとAllSeen Allianceを統合できればと考えている。複数のアプローチが併存することは業界全体にとって良いことではないと思う」と発言している。このことからも、IoTの標準化を実現し対応するIoTデバイスが拡大することによって、半導体市場を活性化させることが各社の真の目的といえるだろう。
取り組み(団体) | Works with Nest | Thread | Allseen Alliance | Open Interconnect Consortium | SmartThings |
---|---|---|---|---|---|
主導者 | Nest Labs/Google | Qualcomm | Intel | SmartThings/Samsung | |
コアビジネス | デバイス販売 | 半導体販売 | デバイス/半導体販売 | ||
参入の狙い | デバイス販売促進、データ収集 | ローエンド製品への普及促進、データ収集 | 半導体の販売促進 | 自社製品及び半導体の販売促進 | |
提供開始時期 | 2014.6 | 2014.7 | 2013.12 | 2014.7 | 2012.12 |
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