IoTで“5つの競争要因”はどう変わるのか:マイケル・ポーターの「IoT時代の競争戦略」(中編)(3/3 ページ)
経済学者マイケル・ポーター氏と米国PTCの社長兼CEOであるジェームズ・ヘプルマン氏の共著であるIoTに関する論文「IoT時代の競争戦略」が公開。その内容を解説する本稿だが中編では、IoTとスマートコネクテッドプロダクトにより業界構造がどう変わるかを紹介する。
“5つの競争要因”から見える3つの傾向
スマートコネクテッドプロダクトによる“5つの競争要因”の変化を見てきたが、実際には業界によって影響度は大きく変わる。ただその中でも鮮明な傾向が3つ見えてきたという。
1つ目が、製品利用データの活用だ。製品利用データを早期に収集・蓄積し、それを活用したサービスを展開すれば、参入障壁を高められ先行者利益も獲得できるという。
2つ目が、事業領域が拡大している業界では再編圧力が高まるということだ。その場合いくつもの製品を展開する企業よりも単一製品しか持たない企業は競争上不利になる。
3つ目が、各業界において強い新規参入企業が生まれる可能性が高いという点だ。従来の製品定義や守るべき資産もない企業が、スマートコネクテッドプロダクトの可能性を引き出し、業界の慣習を打ち破るという。
スマートコネクテッドプロダクト時代に対応する社内体制
では、具体的にこれらの変化に対応するためには社内の各部門にはどのようなことが要求されるのだろうか。製品設計、サービス、マーケティング、人材開発、セキュリティなどに求められることを見ていく。
製品設計
スマートコネクテッドプロダクトの開発するには新たな製品設計原則が必要となる。カスタマイズはできる限りソフトウェアに任せハードウェアを規格化することや、パーソナル化の実現、アップグレードに対応する設計など、接続をベースにした設計手法を考えなければならなくなる。それに合わせて、製品のハードウェアやソフトウェア、接続機能を支える部品などを統合するために、システムエンジニアリングとアジャイル開発手法が必要になるが、多くの製造業においては現状では不十分だという。
また製品が完成間近であったり販売後であったりしても効率よく設計変更が可能なように、設計開発プロセスも抜本的に見直す必要が出てくるだろう。さらに、製品のハードウェア開発とソフトウェア開発のスピード感が違うために、これらを合わせるための体制なども用意しなければならない。
アフターサービス
スマートコネクテッドプロダクトは予防的なメンテナンスやアフターサービスにおける生産性の改善に大きく貢献する。製品のデータを常に把握できるために、これらの稼働状態を確認することで、故障や不具合の兆候を発見でき、壊れる前に修理を行えるようになる。しかし、これらを実現するためには、サービス組織やサービス提供プロセスの刷新が必須である。新たな付加価値を提供できる一方で、ビジネスモデルや契約関係も複雑となるので、従来以上にサービス契約の結び方が重要になってくる。
マーケティング
スマートコネクテッドプロダクトを用いると常に顧客との関係性を保ち続けることができるので、マーケティング部門にも新しい技能や商習慣が必要になる。製品使用データを分析することで製品のポジショニングやセグメントなどを見直すことに活用できる。また、より顧客が価値が高いと考える領域に向けた製品やサービスを提供することなども可能となる。例えば、GEなど航空機エンジンメーカーは、航空機メーカーに対しエンジンを売るのではなく「エンジンの出力」を売る「Power by the Hour(パワーバイジアワー)」という契約なども行っている。
人材開発
スマートコネクテッドプロダクトにより人材開発でも変化が生まれている。製造業にとってはこれまでは機械エンジニアなどが中心だったかもしれないが、そのような企業であっても、ソフトウェア開発、システムエンジニアリング、製品クラウド、ビッグデータ解析などの技能を持った人材が必要になる。
セキュリティ
常に接続することが条件となるスマートコネクテッドプロダクトでは、セキュリティは最大の課題であるといえる。製品を出入りするデータや製品間を行き来するデータの保護、製品不正利用の防止、製品テクノロジースタックと他の企業システムとの安全な相互接続など、守らなければならないポイントは多い。このため、新たな認証プロセスや製品データの安全な保管、製品データと顧客データの保護、アクセス権限の設定と管理、製品そのもののセキュリティなど、取り組まなければならないことは多い。
◇ ◇ ◇ ◇
中編では、IoTおよびスマートコネクテッドデバイスによって業界構造や競争のポイントがどう変わるかということを紹介した。後編では、これらの変化の中で企業が勝ち残るために考えるべき「10の選択肢」について説明する(後編に続く)。
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