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次世代DVD規格紛争とFCV特許開放が示す「世代交代」の特許戦略知財専門家が見る「トヨタ燃料電池車 特許開放」(3)(2/2 ページ)

トヨタ自動車の燃料電池自動車(FCV)特許無償公開の狙いについて解説する本連載。最終回となる今回は「世代交代を促す事業戦略」という観点で、トヨタ自動車の狙いを掘り下げてみる。

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世代交代を促す事業戦略

 標準化の役割の1つに製品や技術の世代交代を促す効果があります。代表的な事例として、無線通信の第2世代通信(2G)から第3世代通信(3G)への世代交代が挙げられます。

 この世代交代劇を象徴する訴訟となったのが、ノキアとクアルコムの間での特許訴訟です。ノキアは、2000〜2009年にかけて携帯電話端末の世界的な覇者でした。一方のクアルコムはスマートフォン関連技術の特許を固めていました。その圧倒的な特許力を背景としたビジネスモデルが問題となり、各地で独禁法違反の問題を発生させました。最近では中国で9億7000万ドルの罰金を支払うことで、当局と和解したことなども伝えられています。

 その両社は2001年にアライアンスを組んだことがあります。しばらく蜜月時代が続きましたが、2005年になって蜜月時代は終わりました。特許契約に基づくロイヤリティーの支払いが不足しているとして、クアルコムがノキアを訴えたからです。ノキアもこれを受けて裁判で応戦することになりました。両社の裁判は、全世界で展開され、2008年になって和解に至ったというわけです。

 この裁判は、もともと、2G規格であるGSMが3G規格のWCDMAになかなか移行しないことにしびれを切らしたクアルコムが仕掛けたものです。つまり、2Gから3Gへの世代交代を促すために、特許訴訟でライバル企業の動きを促すという特許戦略です。このような攻撃型の権利行使は、特許の世界では伝統的なもので、特に珍しいものだとはいえません。ノキアとクアルコムの場合は、たまたまグローバルな訴訟合戦となったために注目されただけだといえます。

燃料電池車の場合はどうか?

 しかし、今回の燃料電池車(FCV)の場合には、特許を武器にした力ずくのやり方で世代交代を迫るのではなく、特許開放という形で仲間作りを始めようとしている点に大きな違いがあります。「世代交代を迫る標準化」という点で見れば、これは「新しい時代の特許活用モデル」ということができます。

 このような違いは、業界による事業戦略の相違から生じたと見ることもできます。無線通信技術の場合、重要な特許をベンチャー企業が保有しており、しかも技術のライフサイクルが短いという特徴があります。このような業種では、研究開発への投下資本は、特許を行使してできるだけ早く回収するという動きになります

 それに対して、自動車は「特許の固まり」と呼ばれるほど、関連特許の数が多く、しかも自動車メーカーをトップとした裾野型の典型的な産業です。こういう業種では、少数の特許を保有していても、ほとんど大勢には影響がありません。最終的には、長い期間を掛けてでも仲間を増やし、必要な特許数をそろえていくことが効果を発揮する業種であるといえます。

 従って、今回の特許無償開放宣言は、自動車業界としての新たな特許戦略を示したもので、新しい燃料電池市場を創出するための事業戦略と考えることができます。これは業界にとって新しい試みであるだけに、成功するかどうかはもちろん分かりません。しかし、もし成功した場合、自動車関連産業における特許戦略に大きな影響を与える可能性も高く、今後も注目すべき取り組みだといえます。(連載終わり


筆者プロフィル

藤野仁三(ふじの じんぞう) 東京理科大学院 知的財産戦略専攻(MIP) 教授 Webサイト(http://www.jinzofujino.net/

藤野氏

福島大学経済学部卒。早稲田大学大学院法学研究科修了(経済法専攻)。日本技術貿易株式会社および米総合法律事務所モリソン・フォースター東京オフィスにてライセンス契約、海外知財法制調査、海外訴訟支援などを担当。2005年から東京理科大学専門職大学院MIP教授。専門は技術標準論と米国特許法。著書に『知財担当者のための実務英文入門』、『標準化ビジネス』(共編著)、『米国知的財産権法』(訳書)、『よくわかる知的財産権問題』、『特許と技術標準』がある。東京大学情報理工学系研究科非常勤講師。



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