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老舗が生んだ革新、“全天球カメラ”誕生の舞台裏小寺信良が見た革新製品の舞台裏(3)(5/5 ページ)

“360度の空間を撮影するカメラ”として新たな市場を切り開くリコーの全天球カメラ「RICOH THETA」。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。

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どう進化して、どこへ向かうのか

―― 2014年11月に、2世代目となるTHETA(m15)が出ました。価格が下がってカラーバリエーションが追加されましたが、デザインは変わりませんでしたね。このあたりは何か理由があるのでしょうか。

高田 1台目の資産をなるべく活用して、その範囲の中で機能を追加しつつ、価格をより下げるというところを狙いました。そのため、デザインは同じになりました。ユーザーにも評判がいいですし、2013年度にグッドデザイン賞も頂きましたので、特に急いで変える必要もないかなと考えています。

―― 2世代目では動画に対応したというのが大きなポイントだと思います。これは次のステップとしてはやはり動画だろうということを考えてのことでしょうか。

澤口 当初から動画を狙ったコンセプトはありました。ただ、もともとは動画というより、写真に音声ファイルを付けるというアプリケーションを考えていたのです。ですから初号機にもマイクが付いています。ただ、これはさまざまな問題があって活用する形にはなりませんでした。こうした経緯を踏まえるなかで、第2世代機には動画機能を搭載することになったのです。

―― 動画機能は連続撮影時間が3分までに制限されていますよね。これは意図的なものでしょうか。それともハードウェア的な制約でしょうか。

大熊 技術的な制約もあるといえばありますが、どちらかといえば製品企画としての面での考え方が大きいですね。

高田 社内で検証している際に、THETAで撮影した動画を長時間見ていると、映像酔いをしてしまうことが多かったのです。そこでさまざまな検討を行い、3分ぐらいであれば大丈夫ではないかという仮説を立て、仕様に落とし込みました。ただ、これは撮影シーンにもよりますし正解がない世界だとは思っています。実際にユーザーからは、撮影時間をもっと長くしてほしいという要望が多く出ているので、技術的な課題も踏まえて今後の対応を検討したいと考えています。

大熊 既に検証レベルでは、長時間録画はやってみています。ただ動画の場合は、後処理をPCで行うことになるのですが、その時間が長くかかってしまいます。気軽に見てもらえないという問題もあるので、そこをどうするかというところが、一番大きな課題だといえます。

業務分野での活用

―― 今後の展開として、例えば何か業務分野での活用というのも視野に入っているのでしょうか。

高田 実は既に特定のWebサービスに組み込みたいという顧客向けにビジネス向けのサービスを展開しています。実際にCHINTAIに対しては、2014年秋からソリューションサービスを開始しています。THETAで不動産物件を撮影したものを、われわれの「THETA360.BIZ」という商用サーバに上げてもらい、物件紹介のサイトからアクセスして表示するというサービスを提供しています。物件を探している方には、中の様子もぐるっと見回せるので、より分かりやすい利点があると思います。

―― それは分かりやすそうですね。THETAなら自分が気になるところを重点的に見られますよね。面白おかしいだけじゃなく、具体的に役に立つようになってきましたね。

澤口 これは全く個人的な意見ですが、「Oculus Rift」のようなヘッドマウントディスプレイ(HMD)やそれに伴うVR(仮想現実)と、THETAは相性がいいと考えています。今後これらのHMDとマッチングさせていくのが、重要ではないかなと思っています。

高田 現在新しい取り組みとして、開発者向けにAPI(Application Programming Interface)とSDK(Software Development Kit)を提供しています。これを活用したアプリやシステムを開発していただいて、THETAを使った新しい世界をユーザーと一緒に作っていきたいと思っています。

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THETAを持つ高田氏、澤口氏、大熊氏。リコー本社入り口には、巨大なTHETAのモニュメントが飾られている(クリックで拡大)

(次回に続く)


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)


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