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“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”JINS MEMEはなぜ生まれたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(2)(1/4 ページ)

“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”として大きな注目を集めたジェイアイエヌの「JINS MEME」。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。

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 今までにない新しい製品のアイデアや発想はどこから生まれてきたのか。またそのアイデアを形にしていくにはどういう苦労があるだろうか。「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」では、商品企画や設計・開発の担当者へのインタビューを通じ、革新製品の生まれた舞台裏に迫る。今回は、“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”として大きな注目を集めているジェイアイエヌの「JINS MEME」の舞台裏をリポートする。




 2014年5月13日、メガネ専門店「JINS」を運営するジェイアイエヌから、奇妙なデバイスが発表された。「JINS MEME(ミーム)」と名付けられたそのメガネは「自分を見るアイウエア」であるという。

JINS MEME
JINS MEME(クリックで拡大)

メガネ市場を変え続けてきたJINS

 目のいい人には今一つピンと来ないかもしれないが、子どもの頃からメガネのお世話になっている筆者らメガネ族なら、ここ数年進んで来たメガネの低価格化には驚かされる。

 その中でもジェイアイエヌは、13年前にメガネ産業に参入し、GAPやユニクロといったSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製販統合)モデルによって大きく躍進した。独自ブランド製品を専門店「JINS」で展開し、一気にメガネ市場を低価格路線にシフトさせた。「レンズとフレームの一体価格」、「デザインが豊富にあるにもかかわらず価格は4タイプ(4900円、5900円、7900円、9900円)に統一」という手法は、既に消費者にとっては当たり前のものとして受け入れられつつある。

 また、PC用メガネとして白色LEDバックライト特有のブルーの成分をカットする「JINS PC」により、新たに「目が悪くない人でもメガネを掛ける」という文化を生み出した。

 メガネ市場に新たな旋風を巻き起こしてきたジェイアイエヌが“次の一手”として発表したのがJINS MEME(以下、MEME)だ。MEMEはもちろんメガネではある。しかし、メインの機能は視力矯正ではない。目の動きを測定・記録し、それを解析することで、活動量や体軸の測定を行う、一種のウエラブルデバイスである(関連記事:「疲れ」や「眠気」を教えてくれる次世代メガネ「JINS MEME」――2015年春発売)。

 Googleのようなハイテク企業ではないジェイアイエヌが、こういったセンシングデバイスに参入するのはなぜか。今回は、そんな疑問から取材をスタートした。話を伺ったのは、ジェイアイエヌ R&D室 マネージャーの、井上一鷹氏。研究開発部門におけるMEMEの責任者である。

ジェイアイエヌ R&D室 マネージャーの、井上一鷹氏
ジェイアイエヌ R&D室 マネージャーの、井上一鷹氏

MEME開発の背景ときっかけ

 まず現在のメガネ産業を取り巻く環境からひもといていこう。メガネ産業は、2000年を過ぎた頃から低価格化が加速。2001年に「Zoff」が下北沢に、「JINS」が福岡の天神ビブレに1号店をオープンしたこともあり、低価格の勢いは拍車が掛かった。それ以降、ファッション性の高い1万円以下のメガネが、市場を席巻するようになった。

 価格破壊が起こったことで、出荷本数は増大した。従来はメガネを掛けている人でも、1つか2つ持っている程度のものだったが、今では服に合わせて掛け替えるということも、日常的なものとなった。低価格化によって、メガネに「ファッション」という新たな軸ができたわけである。

 だが、メガネが必要な人たちというのは、ある一定数で天井が決まっている。その人達が複数のメガネを買っても、価格下落が激しいために、市場規模は縮小する。国内のメガネ市場は、低価格化以前は6000億円程度だといわれていたものが、現在は4000億円前後に落ち込んでいる。

 これらの背景からメガネ市場を活性化していくためには、新しい「軸」を提案する必要性が出てきた。そこで考え出されたのが、ジェイアイエヌがリードしてきた「機能軸」の提案である。

 その成功例がJINS PCだ。JINS PCは、白色LEDバックライト特有のブルーの成分をカットする「新たな機能」を提供するメガネシリーズだ。「PCを使用する時に使用するメガネ」という打ち出し方が受け入れられ、「目が悪くない人でも仕事中はメガネを掛ける」という新習慣を生み出した。新たなメガネを利用する対象者層を生み出したというわけだ。JINS PCが登場しておよそ3年となるが、同製品は累計出荷400万本を超えるヒット商品となった。現在は他社も追従し、メガネ市場の中で新たな分野として地位を占めるようになった。

 さらにこの「機能軸」を追求した製品として、2014年春には花粉を最大98%カットするという「JINS花粉Cut」を発売した。透明ゴーグル型、サングラス型、度付き、ジュニア用など、ニーズに合わせたラインアップを用意し、こちらもヒット商品となっている。

 ジェイアイエヌではメガネを「アイウエア」と呼んでいる。つまり、メガネを視力矯正の道具として提供するのはもちろんだが、それに加えて「視力矯正が必要ない人にどうやったらメガネをかけてもらえるのか」をずっと模索し続けてきた企業なのだ。

 この「機能軸」をさらに飛躍させるものとしてジェイアイエヌが導き出した答えが「メガネをスマートデバイス化することで新たな機能を生み出す」だ。

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