IoTが製造業のサービス化を呼ぶ?:製造業のためのサービスビジネス入門(1)(2/2 ページ)
モノ売りからコト売りへ――。IoT(モノのインターネット)の進展により、一昔前に製造業の周辺で言われてきたサービスビジネス拡大の動きが本格的に広がりを見せ始めています。しかし、「モノ」を主軸としていた製造業が「コト(サービス)」を中心としたビジネスモデルに切り替えるのは容易なことではありません。そこで本稿ではサービスビジネスの基本的な話を分かりやすく解説していきます。
「サービス」の本質とは?
まず手始めに「サービスの特性」というものを見てみましょう。サービスの特性として一般的に挙げられるものに、以下の4点があります。
- 無形性(Intangibility)
- 異質性(Heterogeneity)
- 同時性(Inseparatability)
- 消滅性(Perishability)
これらの4つを指し示す単語の頭文字からIHIPモデルと呼ぶこともあります。それぞれについてアフターサービス部門のコールセンターを例にして説明します。
無形性(Intangibility)
無形性とは、姿や形がなく目で捉えることができないということです。モノとしての製品については姿や形が物理的に存在しますが、サービスではこれらは存在しません。例えば、消費者がコールセンターに電話をかけ、オペレーターが疑問に答えてくれたとしても、その対応自体は他人から見て目に見えるものではありません。
異質性(Heterogeneity)
異質性とは、サービスは標準化することが困難であるということを示します。全く同じサービス内容であっても、提供者によってそのやり方や方法はさまざまであり、完全に均質なものが提供されるということは非常にまれです。また、顧客によっても受け取り方はさまざまであり、同じ作業を行ったとしても、同じような受け取られ方をするとは限りません。
例えば、コールセンターに電話したとしても、言葉の一字一句まで全く同じ対応をするということはあり得ません。また、そのような機械的な対応をした場合、顧客の求めるものとのギャップが生じ、最終的な目標である顧客の満足度を達成できないでしょう。ただ、近年発展が著しい人工知能の登場で、今後はサービスの標準化も進む可能性も生まれています。
同時性(Inseparatability)
同時性とは、提供と消費が同時になされるというサービスの特殊性を示します。製品と異なりサービスは在庫して後で使用することはできないということです。コールセンターにおいては、人とのやりとりそのものがサービスであり、提供者と顧客が直接コンタクトしている中でサービスが提供されて消費されます。その良しあしがその場で判断されてしまうというところがサービスビジネスの難しさを示しています。
消滅性(Perishability)
消滅性とは、サービスが提供された段階で消費され消滅してしまうということを示します。つまり保存しておいて後で提供するということが不可能であるということです。例えば、コールセンターの対応に感動したとしても、その感動体験そのものを物理的に保存しておくことはできません。コールセンター側では、顧客とオペレーターの会話内容を録音しているケースが多いですが、これはあくまでもサービス品質の向上などを目的としたものであり、これをそのまま後に提供するということは不可能です。
サービス特有の難しさにどう取り組むか
これらで示したように、IHIPモデルで表現されるサービス特性は、目に見えず体験してもらわない限りその価値を判断してもらうことは難しい上、実際の体験の良しあしでその後の購買行動にも影響を及ぼすという難しい存在です。そのため、新たなサービスビジネスを実現するためには、従来の製造業の基本的な運営方法とは異なる観点からのアプローチが必要になるといえます。
一方で、IoTが示す可能性は、これらのサービスの特殊性の一定部分を機器間通信により、標準化することができ、従来の人間頼みのIHIPモデルによる制約を打破する1つのきっかけになるともいえるかもしれません。そのため、従来にはない新たなサービスモデルが生まれる可能性が出てきたのです。
(次回に続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない
製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。 - ウェアラブル端末とモノのインターネットは「現場」の救世主となるか?【前編】
製造現場や保守現場、建築現場など、多くの業種においてさまざまな「現場」が存在しているが、その現場が今“悲鳴”を上げていることをご存じだろうか。その救世主として今急速に注目を浴び始めたのが、ウェアラブル端末とIoT(モノのインターネット)だ。本稿では、前編で「現場」の現状となぜウェアラブル端末に注目が集まるのかについて、後編でICTを活用した「現場」の将来像について解説する。 - 製造現場になだれ込む「モノのインターネット」と「ビッグデータ」
IoT(モノのインターネット)やビッグデータ解析の活用先としてにわかに「製造現場」への注目度が高まっている。製造業において、ICTの活用により生産性や柔軟性をもう一段高めようとするモノづくり革新の動きが活発化する一方で、これらの技術のビジネス活用を推進したいIT系企業が提案が加速。製造現場への熱気が高まっている。 - サービス部門をプロフィットセンターへ――サービスは利益を生み出す宝の山
PTCは、ユーザーカンファレンス「PTC Live Global」の一環としてサービス部門を対象とした「Service Exchange」を開催。サービス部門は企業のブランドや製品のライフサイクルを管理する上で重要な部門であり、最適な管理を行うことでコストを抑え利益をもたらすプロフィットセンターになり得ることを訴えた。 - テーマサイト「製造業ビッグデータ」