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海外展開でもうかる企業は一部だけ!? 日系企業が国内生産にこだわるべき理由いまさら聞けない「工場立地」入門(4)(4/4 ページ)

長年生産管理を追求してきた筆者が、海外展開における「工場立地」の基準について解説する本連載。4回目となる今回は、あらためて日本国内での生産の価値とその可能性について解説する。

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世界から見た場合、日本市場は“将来性のある巨大市場”

 そもそも「日本市場に将来性がない」というのも、世界的視点から見ると奇妙なことである。図3を見てほしい。横軸には、各国の実質GDPを「Big Mac指数」と呼ばれる一種の実勢為替レートで平準化した数値を取っている。これは国全体の規模や豊かさを示している。一方の縦軸では、それを人口で割って国民1人当たりにした数値を取っている。これは人々の個人としての豊かさを示す(いずれも2010年度数値)。


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図3:世界各国の市場規模と消費者の経済的な豊かさ(公開統計を元に著者が作成)(クリックで拡大)

 これを見れば一目瞭然だが、日本は社会として米国に次いで圧倒的に豊かであることが分かる。グラフは対数軸なので、一目盛で10倍の違いとなる。日本は1人当たりの豊かさでは、中国と文字通り一桁違う豊かさを持っているといえる。

 また、個人としては世界一裕福だといえるルクセンブルクを見てほしい。個人としては豊かでも、国としてのGDP規模は非常に小さい。ルクセンブルクの企業家から見れば、日本はため息が出るほど巨大で均質な市場と映るだろう。もともとの母国が規模の小さな国では、スケールメリットを出すのは至難の業となる。これらを考えると世界全体から見た場合、日本は圧倒的に恵まれたビジネス環境であることが分かる。

 日本人にとって、海外ビジネスのハードルは高い。長年、海外で仕事をしてきた著者らにとっても、言語の壁、契約の壁、人材の定着率、どれをとっても頭の痛いことばかりだ。国内だけで商売できるなら、こんなにうれしいことはない、というのが正直なところである。それなのに、なぜ日本市場を大切にしないで、海外工場移転に走るのだろうか。どのような戦略のもとで、それを考えているのだろうか。そして、20ある立地基準の、どの基準を競争力の鍵と考えて展開しているのだろうか。

 筆者は、海外に工場を計画したいという顧客がいれば、全力でサービスする。それが筆者らの得意とする仕事だからだ。しかしその前に、なぜその国を生産の「適地」だと考えたのか、戦略的な視点から冷静に考えてほしいと願うのである。(連載 終わり


筆者プロフィル

佐藤知一(さとう ともいち)  Webサイト(http://brevis.exblog.jp/

佐藤氏

1982年、東京大学大学院工学系研究科修了。日揮にて国内外の製造業向けに工場計画・設計とプロジェクト・マネジメントに従事。特に計画・スケジューリング技術とプロジェクト評価を専門とする。工学博士、中小企業診断士、PMP。1985〜1986年、米国東西センター客員研究員。東京大学・法政大学講師。スケジューリング学会「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」主査、NPO法人「ものづくりAPS推進機構」理事。

  • 「時間管理術」(日経文庫、2006年)
  • 「BOM/部品表入門」(山崎誠氏と共著、2005年)
  • 「革新的生産スケジューリング入門」(日本能率協会マネジメントセンター、2000年)

田尻正滋(たじり まさじ)

田尻氏

1969年、東京理科大学理学部卒業。日揮にて石油・化学・天然ガスプラントの建設・保全プロジェクトに従事。1988年、独立コンサルタントに転進。1991〜2001年までニューヨークを拠点に北米各地で現地企業を支援。1995年よりAPO・JICA専門家としてアジア・オセアニア諸国の現地企業・政府機関を指導している。

  • 「TPM Implementation」(McGraw-Hill、1992年)
  • 「Autonomous Maintenance in Seven Steps」(McGraw-Hill/Productivity、1999年再版)
  • 「自主保養七階段」(中衛、2003年)



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