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海外展開でもうかる企業は一部だけ!? 日系企業が国内生産にこだわるべき理由いまさら聞けない「工場立地」入門(4)(3/4 ページ)

長年生産管理を追求してきた筆者が、海外展開における「工場立地」の基準について解説する本連載。4回目となる今回は、あらためて日本国内での生産の価値とその可能性について解説する。

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競争戦略から見た「適地生産」の場所

 経営学者のマイケル・ポーター氏は、競争戦略を3つのカテゴリーに分類している(関連連載:マイケル・ポーター教授のものづくり競争戦略)。「コスト主導戦略」「差別化戦略」そして「集中戦略」である(図1)。

 コスト主導戦略は、広い商品ラインアップを持つ企業が、スケールメリットを追求しつつ、低コストで市場をおさえる手法だ。コスト重視・大量生産であるから、工場立地においても、原料費、人件費、物流費などが安い場所に進出することになる。これは、大手消費財メーカーなどでよく見られる戦略である。生産財で見ても、例えば石油精製や基礎化学は、高価な輸入原料に頼るため、日本での国内生産はもはや大幅に増える可能性はないだろう。

 差別化戦略は、製品の性能、納期、品質(信頼性)、販売(提供方法)、ブランド、技術開発サイクルなどの面で、競合製品との違いを打ち出していくやり方である。この戦略では、製造機能は、本社(製品企画開発部門)に近い方がいい。密なコミュニケーションを必要とするからだ。

 集中戦略とはニッチを狙う方法である。自らが強みを持つ狭い守備範囲を設定して、そこに経営資源を集中する。通常は商品セグメントや顧客セグメントを絞り込むが、地域を絞り込むケースもある。そして、もし日本企業が集中戦略をとるのなら、わざわざ強みのない外国に工場を進出する意義はない。

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図1:競争戦略と工場立地の関連性(クリックで拡大)

 このように考えると、真に生産の海外進出が必要なのは、コスト主導戦略を選ぶ場合だけだと分かる。それ以外の場合では(世界全体の市場を相手にしている超大企業を除けば)、恐らく日本が生産にとって適地であるといえる。自社の実力値やターゲットとなる顧客や製品などを考えずに、この辺りの戦略のミスマッチが発生しているのが多くの企業で見られる現状なのではないだろうか。

先進企業でも海外工場はそれほど儲かっていない

 ではなぜ、海外工場進出が長らくトレンドとなっており、産業全体で海外生産比率が約2割もあるのだろうか。その1つの要因は、自動車産業のモデルを参考としたからだ。

 日本の自動車メーカーは1980年代から、米国への工場進出を開始した。この時の動機はコスト主導戦略というよりも、貿易摩擦の回避にあった。ただ、米国で生産するに当たっては、系列の部品サプライヤーにも工場の移転を促した。そこで海外生産の流れが生まれたのだ。しかし、実は自動車産業の海外工場は今でもそれほど儲かっていない。それを象徴しているのが、富士重工業(スバル)の健闘だろう。

 富士重工業の海外生産比率は主要自動車メーカー6社の中で最低の21%であり、北米市場にも、日本製の車を多く輸出して販売している。にもかかわらず、2014年3月期(2013年度)は大株主であるトヨタ自動車を抜いて、業界でナンバーワンの利益率を達成している。図2を見れば分かる通り、自動車メーカーの利益率は海外生産比率とあまり相関がない。いや、むしろ相反する関係にあると見ることさえできよう。

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図2:主要自動車メーカーの海外生産比率と利益率(クリックで拡大)

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