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日本の“安定した基盤”がモノづくりに与える意味とは?小寺信良が見たモノづくりの現場(11)(1/5 ページ)

「小寺信良が見たモノづくりの現場」での取材から得た「気付き」から「ニッポンのモノづくりの強み」を2回にわたってまとめる本企画。今回は「なぜ日本で作る意味があるのか」についてを掘り下げる。

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 前回から引き続き「小寺信良が見たモノづくりの現場」で取り上げてきたさまざまなモノづくりの現場をあらためて総括する2回目である。

 国内生産における必勝パターンとして、「多品種・少量生産をいかに低コスト化するか」あるいは「精度の高いハイエンドモデルをいかに短時間で作るか」ということがポイントだということを紹介したが、今回は「なぜ日本で作る意味があるのか」という、その背景部分に触れていきたいと思う。



日本で作る合理性や妥当性

 日本は戦後復興、高度経済成長を経て、旺盛な国内需要に後押しされる形で多くのメーカーが立ちあがった。これだけ小さな国の中に、世界に名だたる企業がひしめき合っているのは、世界的に見てもかなり特殊である。

 ただ、バブル崩壊後から長らく続いた不況と、アジア地域の活性化というバランスの中で、多くのメーカーが海外に工場を進出させてきた。さらには2004年の新潟県中越沖地震、2011年の東日本大震災と、10年以内に2つの大きな災害に襲われ、多くの国内工場が被災した。中には早期の再建を諦めた工場もある。

 しかしその中でも、日本でモノを作ることにこだわり続ける国内企業は多い。それは単に、本社が日本にあるからとか、日本で創業したからという意味でのこだわりではない。そこには合理性や妥当性があるからだ。これまでの取材では、必ずその理由を伺ってきた。今回は多くの工場で見た、日本で作らなければならないそれぞれの理由をまとめてみたい。

日本独自の雇用体系がもたらす意味

 最初に「なぜ日本で? 」をテーマにすることを思い付いたのは、ソニーイーエムシーエス湖西サイトでの取材(ソニーの“プロ機”が日本人にしか作れない理由)だった。放送用のプロフェッショナル機、映画上映用の4Kプロジェクタなどを生産するこの工場は、基本的に同じものを量産するところではない。映画用プロジェクタなどはカスタム仕様の受注生産だし、放送機器の多くは10年以上使われ、同仕様のものを少しずつ、長期に渡って作り続けなければならない。また保守部品の製造も定期的に行われる。

映画用4Kシステムは全てカスタム仕様
映画用4Kシステムは全てカスタム仕様

 そのため、超多品種、超変量に対応しなければならない。またプロ機は長時間電源を入れっぱなしで使うものであり、それだけに高精度・高信頼性が製造時における一番のポイントとなってくる。このようなモノづくりは、いいものをより安くより早くという思想とは対極のものだ。

 これをクリアするのは、真面目だからとか、手先が器用だからといった、日本人像としてよく言われる気質が理由ではない。まず基本として「長期の安定雇用が成立する社会かどうか」という点が大きいだろう。終身雇用制度は崩壊しつつあるものの、日本の社会では今なお、より好待遇を求めて転職を繰り返すようなことは、ごく一部の特殊な業界を除いては、行われていない。

 長く雇用されれば、それだけ多くの製品の製造経験を積むことになる。また同じ職場に長く勤めれば、自分たちが働きやすいシステムを開発したり、スタイルを確立することが可能になる。さらに先輩社員から若手社員に、技能が継承される。改善の日常化と技能継承が、日本のモノづくり現場の特徴だが、それは日本の雇用形態が生み出しているともいえることを感じさせられた。

「見えるものはまねして構わない」

 これは島根富士通(富士通のPC工場、勝利の方程式は「トヨタ生産方式+ICT活用」)の徹底した割り切りでも感じられたことだ。この工場は、他社と違って基本的に取材の写真撮影はどこでもOKというスタイルをとっている。日本では非常に珍しい対応だが、同社社長の宇佐美隆一氏は「表面に見えるものはまねしてもらって構わない」と強調する。

 これは逆に言えば、見えるものをまねした程度では、追い付けるものではないという自信の表れである。方法論をまねても、人の能力が伴っていかなければ工場は回らない。島根富士通では、中国の大手EMS企業の見学を受け入れたこともあるが「雇用体系が違いすぎて同じようにはできない」と言われたことがあったそうだ。

 島根富士通の面白いところは、同社生産ノウハウの外販(FJPSとは? 富士通がモノづくりノウハウを丸ごと提供へ)に乗り出したことである。これはつまり「今や国内企業同士争っても仕方がない」という宣言にも受け取れる。このノウハウは、日本の雇用システム上でしか機能しないからだ。自社のノウハウを提供することで、日本企業全体を勝たせようとするという発想である。

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