NECは、どうやって「在庫が山積みなのに売り場は欠品」状態から脱却したのか:メイドインジャパンの現場力(2)(3/3 ページ)
「なぜこんなに在庫が残っているのに欠品が起こるのか」。NECでは1990年代まで、需給ギャップに円滑に対応できず、サプライチェーンの各所で在庫の山が発生していた。その状況から脱却できたのは2000年から取り組みを本格化させた生産革新の成果だ。その革新の最前線でもあるNECインフロンティア東北を訪ねた。
生産品の特徴による3分類と「OneCycleかんばん」
NECインフロンティア東北では、電話機などの量産品から、顧客の個別ニーズに応じたカスタム品まで多彩な生産方式が要求される品目の生産を行っている。「1カ月の生産機種数は約1000種類に及び、8割が数十台規模だ。一方で売上高で見ると6割以上が量産品となっており、両方のニーズを満たす形で生産できなければならない」と加登氏は話す。
そこで同社では、生産品目に要求される生産ニーズに応じて、3つの分類でパターン化し、それぞれに応じた生産方式を取っているという。量産可能な標準製品で後補充型の生産方式を取る「I類」、顧客仕様でのBTO生産の「II類」、個別受注生産の「III類」に分け、基本的な生産方式の標準化を図っている。工場全体ではかんばんでの後追補充生産を中心とはしているものの、III類などの微量生産品については発注に応じた部材調達などを行う体制としている。
ただ、これらの多品種生産体制により、現場の生産効率が下がってしまわないように、現場の運用としてはどの分類のものでも同じかんばんを利用する「OneCycleかんばん」を活用。全ての現場業務をかんばん(帳票)を中心に回していくオペレーション体制を徹底しているという。
射出成形機やSMT、内製製造機械による多様な生産
また、生産における前後の工程を吸収し、生産の効率と付加価値を高めるために、多彩な製造機器の用意も進めている。SMTラインなどに加えて、9台の射出成型機を配置し、プラスチック成形の内製化を実現している。
加登氏は「電話機やPOS端末など形状の違いを求める顧客も多い。外部では小ロットの依頼に応えてくれないケースも多く、コストも掛かる。内部に取り込むことにより、生産効率を上げることができる他、付加価値の向上につなげることもできている」と話している。
さらに自作の製造機械などを数多く製作しており、構内には内製製造機械用の工房なども用意されている。加登氏は「人手の方が効率化できる場合もあれば、機械を使った方がいい場合もある。工程の統合を実現するには間をつないで無駄を省く機械を有効活用することが必要だ」と強調する。
生産革新活動がBCPにも効果
生産性向上を中心に取り組んできた生産革新活動だが「BCPにも大きな効果があった」と加登氏は話す。2011年3月の東日本大震災、2011年11月〜2012年4月のタイの大洪水とここ数年大きな災害に見舞われるケースが多かったが、東日本大震災からは10日という短い期間でスピード復旧を果たすことができた。またタイ洪水に関しては、関連会社であるNECインフロンティアタイの被災により、代替生産を行い、5カ月間で48万台の電話機の生産を行うことができたという。
「これには、生産革新活動により、生産プロセスの標準化が図られていた点が大きかった。また小集団活動の日常化の中で、トップダウンによる指示がなくても、自分たちで自発的な活動が行われたことが、迅速な判断につながっている」と加登氏は価値を語る。
国内市場の縮小から国内の製造拠点は厳しい局面に立たされているが「新規ラインの立ち上げや、工程統合の取り組みなど、技術力のある日本の工場が試験的な取り組みを行い、手法を確立して海外展開するなど、役割は大きい。生産でさらなる付加価値を作り出していけると感じている」と加登氏は話している。
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