先進運転支援システムの開発を支える半導体の役割:オートモーティブワールド2014リポート(1/3 ページ)
自動車の次世代技術の専門展示会である「オートモーティブワールド2014」には多数の半導体メーカーが出展した。本稿では、先進運転支援システム関連を中心に半導体メーカーの展示を紹介する。
2014年1月15〜17日、東京ビッグサイトで「オートモーティブワールド2014」が開催された。2009年1月に初開催された「国際カーエレクトロニクス技術展」の他、「EV・HEV駆動システム技術展」や「クルマの軽量化技術展」、「コネクテッド・カーEXPO」から構成される自動車の次世代技術の専門展示会である。
オートモーティブワールドでは、前回と同様に多数の半導体メーカーが出展した。本稿では、先進運転支援システム(ADAS)に関連する展示を行っていたフリースケール・セミコンダクタ・ジャパン、ソニー、STマイクロエレクトロニクス、日本アルテラの他、リニアテクノロジー、ローム、ルネサス エレクトロニクスの展示を紹介しよう。
なお、インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの発表会や、スパンション、amsジャパン、セイコーインスツル、ザイリンクスの展示内容を紹介した記事については、以下に挙げたオートモーティブワールド2014の記事を参照していただきたい。
77GHz帯ミリ波レーダーのチップセットが進化
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、自動ブレーキや追従走行のために先行車両を検知するのに用いる77GHz帯ミリ波レーダーのチップセット「MRD2001」と専用マイコン「MPC 577xK」を展示した。
同社は、ミリ波レーダーのコスト削減と高機能化を実現できるSiGe(シリコンゲルマニウム)プロセスを用いたミリ波レーダー用チップセットの第1世代品を自動車メーカーやティア1サプライヤに供給している。ただし、このチップセットはベアチップであり、パッケージされたものではなかった。また組み合わせて用いるマイコンには、同社の車載マイコンの汎用品を提供していた。
今回展示したミリ波レーダーチップセットのMRD2001は、送信IC、受信IC、VCO(電圧制御発振器)という3つのICから構成されており、それぞれパッケージングされている。従来のチップセットは、ベアチップだったため初期故障のスクリーニングに必要なバーンインテストなどを行えないという課題があった。MRD2001は、車載グレードを満足するパッケージ技術を適用しているので、高い品質のミリ波レーダーモジュールの量産を容易に行えるようになる。
一方、MPC 577xKは、77GHz帯ミリ波レーダーによって受信した信号をデジタル信号に変換するために、サンプリング周波数が10MHzのΔΣ変調方式A-Dコンバータを内蔵している。320MHzというオーバーサンプリングも可能なので、従来は77GHz帯ミリ波レーダーに必要だったPLL(位相同期回路)が不要になり、信号のS/N比を高められるという。「2014年春発売の量産車に搭載される」(同社)予定だ。
サラウンドビューに新提案
自動ブレーキの他にも、需要拡大が間近とみられる先進運転支援システムがある。高解像の車載カメラを用いたサラウンドビューシステムである。従来のアナログカメラよりも伝送する映像データの容量が大きくなるため、さまざまな高速インタフェース技術が提案されている。
ソニーは、車載情報機器の高速インタフェースIC「GVIF(Gigabit Video Interface)」をサラウンドビューシステムに適用するためのソリューションを披露した。
GVIFは、主にカーナビゲーションシステムの本体装置とディスプレイの間で映像データを伝送するのに用いられてきた。同社は、高解像の車載カメラを用いるサラウンドビューシステムをGVIFの新たな市場と考えており、新製品を開発中である。
展示では、車載カメラモジュールを模したボード、車載カメラからの映像データを統合するハブボード、映像データを受信して処理/表示する本体装置のボードを用いたデモンストレーションを行った。車載カメラから得た映像データは低遅延かつ高画質のコーデックによりモジュール内で圧縮される。圧縮済みの映像データはハブで統合され、本体装置で展開してからディスプレイに表示される。映像データの送受信ICにはGVIFが用いられる。
GVIFは、伝送速度が最高で2.5Gビット/秒という高速インタフェースICである。高画素の車載カメラの映像データといえども、車載情報機器の本体装置にそのまま伝送するのであれば圧縮の必要はない。ソニーの説明員は、「今回の展示デモは、ワイヤーハーネスの長さやコストの削減を目的としたものだ。サラウンドビューシステムに用いられる4個の車載カメラからワイヤーハーネスを使って車載情報機器の本体装置に直接伝送するよりも、映像データの圧縮やハブボードの活用によりワイヤーハーネスの距離が短くなるとともに、低コストのワイヤーハーネスを使えるようになる」と説明する。また、映像データの圧縮/展開を行うとその分だけ遅延時間が長くなるが、「展示デモでは、車載カメラの撮像からディスプレイの表示までのタイムラグは2.4msと極めて短い」(同説明員)という。
今回の展示の車載カメラモジュールを模したボードは、GVIFの受信ICと送信IC、映像データを圧縮するFPGAは個別のICとなっている。ソニーは2015年までに、これらを1チップに集積したICを開発する計画だ。
STマイクロエレクトロニクス(STマイクロ)と日本アルテラもサラウンドビューシステムに関する展示を行っていた。
STマイクロは、ARMのアプリケーションプロセッサ「Cortex-A9」をデュアルコア構成で搭載する「STiH485」や車載CMOSセンサー「VG6640」、車載用画像処理プロセッサ「STV0991」といった同社製品を用いたサラウンドビューシステムを公開した。
同社のサラウンドビューシステムは、車載カメラモジュール内で映像データをSTV0991で圧縮してから伝送し、STiH485で展開/処理するという点ではソニーと同じである。最大の相違点は、インタフェースとしてイーサネットを用いていることだろう。
この他、高低差の検知が可能な高分解能のMEMS圧力センサーを使ったデモンストレーションを行っていた。STマイクロは、民生用機器向けMEMSセンサーではトップサプライヤだが、自動車の走る/止まる/曲がるといった制御系システム向けでは、2013年から出荷を始めたエアバッグ向けMEMS加速度センサーが初の製品となる。「今後は、横滑り防止装置やロールオーバー検知用のMEMSジャイロなどラインアップを拡充させていく」(同社)という。
日本アルテラの「2カメラトップビュー」のデモ展示。写真中央の台に「Cyclone V SoC」を搭載するボードと2個の車載カメラが搭載されており、奥にあるディスプレイに2カメラトップビューによって統合された映像が表示されている(クリックで拡大)
日本アルテラが展示したのは、2個の車載カメラだけでサラウンドビューシステムを実現する「2カメラトップビュー」である。一般的なサラウンドビューシステムは車両の先端と後端、左右のサイドミラーの下部、合計4個の車載カメラを用いることが多い。2カメラトップビューでは、車載カメラは車両の先端と後端の2個だけを用いる。サラウンドビューシステムの映像は、同社のプログラマブルFPGA「Cyclone V SoC」と、2カメラトップビューのためのリファレンスIPで処理して表示している。
展示の映像を見る限り、車載カメラを4個使うシステムと比べてまだ完成度は低かったが、今後開発が進めば低コストのソリューションとして有力な選択肢になるかもしれない。
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