「サービス中心のモノづくりへ」――ビッグデータから“ビッグバリュー”をつかむアプローチ:組み込みイベントリポート【ESEC2013】(1/2 ページ)
上半期最大規模の組み込み技術の祭典「組込みシステム開発技術展(ESEC)」が2013年5月8〜10日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。本稿では展示会場リポート第1弾として、「インテリジェントシステム」への取り組みに注力するインテルと日本マイクロソフトのブースを紹介する。
上半期最大規模の組み込み技術の祭典「組込みシステム開発技術展(ESEC)」が2013年5月8〜10日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。組み込みソフトウェアからハードウェア、開発ツールまでが一堂に集結するESECは今回で16回目を迎えた。毎年、春に開催されることもあり、今後1年間の組み込み業界のトレンドをいち早くウオッチできる絶好の機会といえる。
既にご存じの方も多いと思うが、アイティメディアが運営する組み込み開発/エレクトロニクス関連メディアである「MONOist」「EE Times Japan」「EDN Japan」では、3メディア合同で「ESEC2013」特集を立ち上げ、事前見どころ情報や会期中の速報ニュースなどを掲載してきた。本稿では、ESEC2013の雰囲気を感じてもらうために、組み込み業界を代表するインテルと日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)のブースの模様をリポートしたいと思う。なお、その他の展示ブースについては、後日お届けするリポート第2弾で紹介する。
「Connect,Manage,Secure」――エッジデバイスからデータセンターまで
ネットワーク接続機能を備えた組み込み機器を“有機的”につなげ、それらから集まってくる無数のデータ(ビッグデータ)から、新たな価値やビジネスモデルを創出する「インテリジェントシステム」。このインテリジェントシステムを取り巻く環境、とりわけクラウドやビッグデータという潮流において、データ収集のエッジデバイス(末端に位置する機器)として、高度な処理性能とネットワーク性能を備えた組み込み機器の重要性を説いてきたインテルは、「Connect,Manage,Secure(接続性、管理性、安全性)」をブース・テーマに掲げ、ESEC2013に出展した。
まず、ブース前面には、インテリジェントシステムにおけるエッジデバイスに当たる「インテリジェントFAコントローラ」「ホームメディアゲートウェイ(HEMSとしても機能するもの)」「次世代自動販売機(コネクテッド自販機)」の3つのデモを展示。そして、「今回のESEC2013では、さらに踏み込んでデータセンター側のソリューションも併せて紹介する」と予告(関連記事1)していた通り、大規模データの並列分散処理のための基盤として知られる「Apache Hadoop」をベースに、インテル独自の機能強化がなされた「Intel Distribution for Apache Hadoop」の展示デモも行っていた。
インテリジェントFAコントローラ
インテリジェントFAコントローラのデモでは、「少ない投資で大きな効果を実現 製造装置からのリッチ情報収集ユニットデモ」と題し、インテル Atomプロセッサ搭載の三菱電機製「C言語コントローラ(Q24DHCCPU-V)」に、日本電能製のデータ収集ツール「CIMSNIPER」と、改造レスで製造装置の操作の自動化を実現する「Cyber Operator」を適用したデータ収集および自動化ソリューションを披露した。
CIMSNIPERにより、製造装置から製造情報を取得し、製造ラインや装置の改造なしに見える化を図る。これと併せて、Cyber Operatorにより、装置自体を改造せずに自動化を図り、省人化を実現するという。「Cyber Operatorにより自動操作している製造装置から、CIMSNIPERを用いて、製造情報をリアルタイムに収集。それをバックエンドのサーバで瞬時に解析し、価値のあるデータとして製造ラインや装置にフィードバックしたり、品質確保に役立てたりといったことが可能になる」(説明員)。C言語コントローラは、インテル Atomプロセッサが担うユーザープログラム実行用のMPUの他に、システム制御用MPUが搭載されており、「ユーザープログラムをシステム制御から独立して実行できるため、ユーザープログラム実行のバラつきを抑え、高速で安定した情報処理を実現できる」(説明員)という。
ホームメディアゲートウェイ
続いて、「マルチサービス・ホーム・ゲートウェイ・プラットフォーム 次世代 HEMS Media Gateway」と題し、参考展示されていたホームメディアゲートウェイのデモ環境では、家庭の中にある機器などから生まれるさまざまなデータを、いかに管理するかを提案していた。通信事業者が求めている次世代のホームゲートウェイ/セットトップボックスをイメージし、「インテルのメディアプロセッサー Atom CE5300ファミリを搭載し、現在、注目されている幾つかのテクノロジーを実装した」(説明員)という。具体的には、注目のブラウザ技術「HTML5」や、スマートフォンなど(宅外)から自宅のテレビ/レコーダーに保存してあるコンテンツの視聴を実現する「DTCP+」、さらにHEMSを意識して、タブレット端末からエアコンなどを操作するために「ECHONET Lite」などを組み込んでいる。デモシステムを開発したのは、イノテックとそのグループ会社であるアイティアクセスだ。
OSとしてLinuxを採用し、ACCESS製のHTML5ブラウザ「NetFront Browser NX ver3.0」、DLNAスタック「NetFront Living Connect SDK」、ECHONET Liteスタック「NetFront HEMS Connect SDK」、HTML5デバイス連携ソリューション「Haap」や、コヴィア製「ARIBスタック」などを用いてシステムを構築している。また、Atom CE5300にはトランスコーダが1チャネルしかないため、マルチデバイスへの複数同時トランスコードに対応するために「米Zenverge製の『4ch同時トランスコーダIC』を用いて、それを補完している」(説明員)。ちなみに、Atom CE5300の後継には複数チャネルのトランスコーダが搭載される予定だという。「米国ではビデオゲートウェイ市場が非常に伸びており、今後は、マルチメディアから白物家電まで、さまざまな機器を宅内外問わずに制御できるホームメディアゲートウェイに注目が集まる。さまざまなデータを管理・処理するホームメディアゲートウェイの実現には、高性能・高機能なCPUが不可欠だ」と説明員は語る。
展示ブースでは、スマートフォンからホームメディアゲートウェイにアクセスし、宅内に保管されている映像コンテンツを再生するデモや、タブレット端末でエアコンや浴室乾燥暖房機を制御するデモなどを披露していた。
次世代自動販売機
「次世代自動販売機(コネクテッド自販機)」のデモでは、2013年3月に開催された「第29回 流通情報システム総合展(リテールテックJAPAN2013)」で披露した通販化粧品ブランド「PROACTIV(プロアクティブ)」の自動型小売店舗システムを設置(関連記事2)。端末の上部にカメラが設置されており、その横にあるディスプレイ(幾つかの広告コンテンツを表示)を見た人の数やその人の性別、どの広告に注目したかなどを計測するデモを行っていた。
Intel Distribution for Apache Hadoop
さらに、今回のESEC2013では、エッジデバイスだけではなく、その先のデータセンター側のソリューションとして、Intel Distribution for Apache Hadoopの展示デモも行っていた。
イベント開催前に行われた事前説明会で、「組み込みの専門展示会でHadoopというと、何だか飛躍したようにも聞こえるが、インテリジェントシステムを実現する上で、データセンター側のソリューションは欠かせない」と語っていたように、確かに“異色なもの”に感じる。しかし、インテリジェントシステムという新たな流れの中でビジネスを展開していくためには、バックエンド側の処理や仕組み、データセンター側からどのようなサービス・価値ある情報が提供されるのかを理解しておく必要がある。「組み込み機器設計は、従来、デバイス中心で考えられてきたが、ビッグデータによる本当の価値(ビッグバリュー)を享受するためには、“サービス中心”で考えていき、どのような組み込み機器がベストなのかアプローチしていく必要がある。そういう思いから今回、Hadoopの展示を行った」(説明員)という。
Hadoopによる並列分散処理でビッグデータを高速に解析することで、「夜間バッチ処理では不可能だった、リアルタイムに何らかのフィードバックをかけるといったこともできる。また、蓄積したサンプルデータから何かを予測するような場合、その元となるサンプルデータの数を短時間で多く取得・蓄積できるため、予測精度を上げることも可能になる」と説明員。
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