IEにおける「品質管理」の考え方とは:実践! IE:現場視点の品質管理(1)(3/3 ページ)
生産工程で考えるべき「品質」の基本とは? TQCの歴史的経緯などを踏まえながらモノづくりの現場が心得るべき事柄を順を追って解説します。
1.2 品質管理によって得られる経営体質改善効果を狙う
品質管理を企業全体に対して実施していくと、どのような効果があるのかを製造部門を中心に整理してみると、次のような内容が挙げられます。
以下の項目を自分の社内や職場の状況と対比して考えてみてください。もし、以下のような状況になかったり、効果があまり得られていないとすると、「品質管理」の方法のどこかに問題があるか、本質的なものの見方や考え方が欠如しているなどが原因だと考えられますので、これを機会に品質管理体系の総点検をされてみてはいかがでしようか。
- 品質(水準)が向上し、不良品や業務上のトラブルが減少する
- 品質のバラツキ(ムラ)が少なくなる
- 生産の三要素(Man、Machine、Material)や生産の3条件(Quality、Cost、Delivery)が“Plan-Do-Check-Action”の管理サイクルに基づいて管理された状態で、改善活動が定着して常にムダの排除が行われており、かつ工数低減が推進できる
- 事実をつかんで問題解決を行うことが習慣となり、経験則やカンで物事を判断することがなくなる。結果的に論理的に物事を考えるようになる(“三現主義”が徹底される)
- 論理的思考(思考が事実に基づき、実証的、論理的、体系的に考える)が定着することで、科学的アプローチへの思考プロセスの基盤づくりができる
- 手直しや品物、業務の後戻りなどがなくなり、価値のない工数が大幅に減る
- 作業や製品に自信が持てるようになり、信頼がおけるようになる
- 生産量が増加する
- 合理的な生産計画が立てられる
- 検査費用や試験費用が減少する
- 原料や部材の供給者との契約が整理され合理化される
- 現場から虚偽のデータがなくなる
- 不要なデータを取らなくなる
- 皆が卒直に建設的な話ができるようになる
- 装置や設備の修理や増設が合理的、重点的に行えるようになる
- 仕損費(Loss due to spoilage)が減る
- 不良・不具合原因の追究と対策が迅速に行えるようになる
- 倉庫や工程間の仕掛り品が少なくなったことで製造リードタイム(工程長)が短縮され、納期通りの生産がより可能となる
1.3 スムーズな生産活動の達成
生産活動は経営活動の一環ですので、調達活動や販売活動の成果が適切でなければ生産活動は計画通りに進まず、生産性の悪い活動を強いられることになります。生産活動は、市場や顧客の需要を満足させるような製品またはサービスを、企業として適正な利益が得られるように生産することを目的としていることは前述した通りです。このような生産活動を計画する場合には、市場や顧客の要望である次の3つの条件を基本的な情報として計画していかなければなりません。
(1)品質(Quality) 作り出す製品やサービスの品種・品質や仕様が顧客・市場の要望に適合していなければなりません。顧客が必要としないものを作っていたのでは売れることはありませんし、他社の製品より粗悪であったり、使用中に破損したり使いにくかったりすれば、その製品を買うことはしないでしょう。
(2)価格(Cost) 同じ品種・品質で、顧客の要望する時期に要望する数量を提供できた場合でも、価格が他社より高くては自社の製品は売れません。また、品質や使い勝手が良くて便利な製品ができても、高い価格では買い手は少ないでしょう。価格が安くなるほど買い手は多くなってきます。
(3)納期(Delivery) さまざまな事情によって顧客や市場側の買う時期や買う数量は異なります。このため、顧客の要望する時期に必要とする数量を提供できなくては売れないことになります。「必要なモノを、必要な時に必要なだけ作る」フレキシブルな生産体制の構築が欠かせません。
ここで注意すべきことは、例え価格だけが他社より安くても不良品の含まれる可能性が高かったり、顧客が指定した納期が守れなかったりしたのでは、不良や納期遅れによって生ずる損失の方が価格の安さを上回り、結局、顧客にとって高い買い物になってしまい、顧客を逃してしまうことです。
以上の3つ(品質、価格、納期)を「需要の3要素」と呼びます。良い品質のモノを安く早く作って顧客に提供するということです。
加えて、ある期待する利益をあげるためには、これだけの原価で納めなくてはならないという原価の問題があるので、この「需要の3要素」を「生産の3条件」とも言います。
このような需要の3要素または生産の3条件が明らかでなければ、企業の利益増大に貢献する計画的な生産活動を行うことができないばかりか、市場の需要に適応し、生産性の高いスムーズな生産活動を遂行できないことになります。
次回は、本稿を踏まえて品質管理についての議論を歴史的経緯から眺めていきます。なぜいま品質管理に取り組まなくてはならないかがわかるはずです。ご期待ください。
⇒次回(第2回)はこちら
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筆者紹介
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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