IEにおける「品質管理」の本質と歴史的経緯:実践! IE:現場視点の品質管理(2)(1/2 ページ)
IEにおける品質管理のあり方とその本質とは? 歴史的背景を見ながらその意義に迫ります。
前回は、IEにおける品質管理の考え方とその目的を中心に紹介してきました。今回は、その本質と歴史的経緯を見ていきます。
2. 品質管理とは?
品質管理とは、顧客や社会が満足するような品質の製品を、最も経済的に生産するための努力であり、企業内の各部門が品質の改善と維持に向けて総合的な協調をしていく体系を主として指します。こうした活動を「品質管理(QC:Quality Control)」「統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)」「総合的品質管理(TQC:Total Quality Control)」といろいろな言葉で表現します。ここからはそれぞれを整理していきましょう。
2.1 統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)
ひとことでいえば「統計的手法を用いて品質管理を行う方法」です。
製品個々の品質ではなく、生産工程全体を対象として品質特性を測定し、そのバラツキを見て管理する(バラツキを抑える)ことを指します。品質特性が規格に対する不適合として設定されている場合は、不良率で表現します。
歴史的には、1920年代にベル研究所のウォルター・A・シュハートが大量生産における製造品質を一定にする統計的方法の利用を提唱したことが発端とされています。日本では、第2次世界大戦後、廃虚の中から立ち上がろうとする日本企業の再建意欲に、さらに火をつけたのは、エドワーズ・デミング(注1)の統計的品質管理でした。日本の産業界も、この統計的手法に基づく品質管理に積極的に取り組んでいきました。戦争のために老朽化した生産設備、良質な原材料の入手困難、生産意欲の喪失などは、市場に粗悪品を氾濫させていました。当時、事物を統計的に判断して対処しようとするデミングの科学的管理技法は、日本のモノづくり企業にとって大きな魅力であり、よりどころとなりました。
デミングは統計的品質管理について「最も役に立ち、しかも買い手のある製品を最も経済的に生産するために、生産の全ての段階に統計的な手法を応用すること」と定義しています。要約すると次のようになります。
統計的 数(値)またはデータを使って
品質 製品の品質特性や製造工程の特性
管理 望ましい状態にすること
この手法は1つのサークル(円)を描いて運用・改善していくものです。デミングの考え方に即していることから「デミングサークル」と呼ばれています(「図2 デミングサークル(管理サークル)」)。
デミングサークルを一般の管理に結び付けた考え方は別の機会に説明しますので、ここでは、品質管理における「Plan-Do-Check-Action」の紹介にとどめておきました。
2.2 総合的品質管理(TQC:Total Quality Control)
製造業における“総合的品質管理(TQC)”をひとことでいえば、「製造工程のみならず、設計、調達、販売、マーケティング、アフター・サービスなどの全部門が連携して、統一された目標の下で行う品質管理活動」のことです。
総合的品質管理について、ファイゲンバウム(注2)は、「総合的品質管理とは、顧客に十分に満足してもらえる状態で、最も経済的な品質水準の製品を生産し、販売していくために、企業内のいろいろなグループ(部門)が払う品質開発、品質維持、品質改良の努力を一本にまとめる効果的なシステムである」と定義しています。これを私たちの工場の中で考えてみると、工場の使命は「良いものを安いコストで、必要量を必要なときに作り出す」こと、すなわち品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)(この3つを生産の3条件という)のバランスの程度が工場の総合的品質管理の実力を示すバロメータになります。
総合的品質管理(TQC)の導入以前は、製造での品質の作り込みよりも、製品の検査を重視した品質保証であったために、一貫性のある品質保証体系の展開に欠け、顧客の要求品質を設計品質に反映させる活動ができず、また生産の準備不足により生産上でのトラブルが発生し、事後処理に追われて再発防止が不十分でした。総合的品質管理では、これらに対応するために、品質保証の基本的な考え方を構築しました。品質と技術の一貫性と、先行開発体制の確立を図り、顧客のニーズをとらえた製品企画から販売・サービスに至る各ステップで品質を作り込み、検査およびサービスを確実に実施することにより品質を保証していこうという考え方です。
具体的には、調達、生産、検査、総務・経理、営業などの企業全体として全てが協力して、各部門が同じように努力し、しかも動きやすいシステムを作り上げ、これを実行してゆくことが必要で、実行に当たっては統計的手法や、物理、化学、電気、機械などの固有技術、標準化、自動制御、設備管理、計測器管理、原価管理、人事管理、倉庫管理など、あらゆる技術と手段を縦横に活用することによって、初めて達成できるといえます。
総合的品質管理は、生産工程のあらゆる面に関係してきます。例えば、顧客の仕様書に始まり、設計技術者による顧客との仕様打ち合せから納入先での現地組み立て、据え付け工事、保守活動に至るまで、一貫して総合的品質管理の対象となるのであって、品質管理という業務が生産工程とどのように関連し合っているかを「図3 生産工程と総合的品質管理の関連」に示しましたが、現場の管理監督者を対象として説明していますので、「図3 生産工程と総合的品質管理の関連」のうち、“製品管理”の部分を中心に品質管理として話を進めていくことにします。
注1)デミング(Deming, William Edwards:1900.10.14-1993.12.20)
1947年に連合国総司令部の要請で統計使節団の一員として来日し、国勢調査を指導。その後も再三にわたり来日し、我が国における産業界の品質管理手法や効率的経営、市場調査などの手法について指導や助言を行った。日本における講演活動や著書出版に伴う収入を基金として1951年にデミング博士の功績を記念し、「デミング賞」が設置された。これはわが国における品質管理の普及実施に功績のあった企業や個人、団体に与えられるもので、多くの企業が受賞している。(「@IT 情報マネジメント用語辞典」より抜粋)
注2)ファイゲンバウム(Armand Vallin Feigenbaum)
TQC(Total Quality Control)は、もともと1950年代にGE(General Electric)の品質管理部長だったA. V.ファイゲンバウムが提唱した言葉で「最も経済的な水準で、顧客を十分に満足させるような製品を生産するために、企業の各部門が品質の開発・維持・改良していく努力を総合的に調整していくこと」としている。日本のTQCの特徴は、現場のQCサークルを中心とした全員参加型の活動にある。A. V.ファイゲンバウムのTQCが「製品提供の全プロセスで総合的・調整的に品質管理を行う」という点がポイントであったことに対して、日本で実践される過程でTQCは独自の発展を遂げた。こうした活動の結果、A. V. ファイゲンバウムが提唱した「全プロセス型TQC」とは異なるものの、現場作業者が中心の日本型TQC(CWQC:Company-wide Quality Control)が確立された。(「@IT 情報マネジメント用語辞典」より抜粋)
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