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IEとはものづくりを改善する科学的アプローチ磐石なものづくりの創造 ―― IE概論(1)(2/2 ページ)

本稿では、ものづくりの経営改善手法であるIE(Industrial Engineering:経営工学)の基礎知識について、その生い立ちから、基本的な手法とその用途、さらに改善実践での心構えなどを紹介する。

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IEの発展

 1921年に入ってからフォードは、生産の標準化、機械化、流れ化、高能率・高賃金を目標として、工場経営に1つの画期的なシステムを確立しました。独創的なシステムというより、すでに他産業において行われていた考え方と手法を徹底して組織的に実行したことに意味があったといえます。フォード方式により確立された、いわゆるフォーディズムは、標準化、流れ化という思想においては、IEの発展に大きな影響を与えたといっても過言ではありません。

 1924年、シュワートによる統計的品質管理(X-R管理図)が生まれましたが、これは現場の管理に対し、数理統計を利用したことでIEの良い手本となりました。また、1927年にメイヨーほか数名は、ウエスタン・エレクトリック社(W.E.Co.)のホーソン工場で、職場の環境と能率に関する研究に着手し、いわゆる人間関係の研究が生まれました。その後も、作業簡素化の思想が発表されたり、また、改善と標準設定のかみ合わせが考えられるようになり、IEも着実に発展してきました。

 さらに、1945年にクイックらの研究からWF法(注1)が生まれ、1948年にメナードなどはウエスタン・エレクトリック社においてMTM(注2)を作り上げ、ストップウオッチを使わないで標準時間を設定する手法、PTS(注3)を実用化しました。

 特に、第二次大戦中、イギリスにおいて発生したOR(注4)は、アメリカに持ち込まれて軍事目的に大いに活用されましたが、戦後、急発展したこの手法は経営管理のツールとして用いられるようになり、IEの有用な道具の1つになりました。ORの発展過程に見られるように、今日のIE技術は「管理」の諸方面での研究から生まれた考え方や手法を消化し、さらに時代に応じた発展を続け総合化されてきたものです。


注1:WF法(Work Factor -Plan, -Analysis) 労働の基礎時間を算定する方法の1つで、あらかじめ作業動作を表にし、この表から標準時間を算出する手法。WF法では、動作時間を決定する要因として、使用する身体部位、動作距離、重量または抵抗、人為的調節(一定の停止・方向の調節・注意・方向の変更)の4つを挙げている。

注2:MTM(Methods-Time Measurement) 定義はPTSの定義と同じ。作業に要する標準時間を測定する方法。

注3:PTS(Predetermined-Time Standard, -Time System) 人の行う作業を、それを構成する基本動作に分解し、各基本動作に対して、その動作の性質と条件に応じて、前もって定められた時間値を当てはめて、作業の標準時間を設定する手法。

注4:OR(Operations Research) 科学的な方法、手法および用具を、システムの運用の仕方や作業計画に関する問題に適用して、その問題に対する最適解の提供や経営の意思決定に用いられる。


経営とIEの役割

経営目的とIE

 ものを生産する会社の経営目的は、顧客に心から満足してもらえる製品を、最少の費用で作り、これをできるだけ広い市場に売り、最大の利益を上げ続けることです。つまり自社製品を通して、大きな社会貢献を果たそうとするためには、できるだけ多くの顧客の支持を受けながら、企業寿命を永く保ち続けることだと換言できます。

 品物が不足していて作りさえすれば売れる時代もありましたが、今日のように競争の激しい自由経済の下では商品力と価格の両面から、いつでも顧客を十分に満足させるような品物を作れる企業でなければ、市場でライバルに打ち勝つことができず、やがては潰れてしまうということになります。それ故、良い品物を最少の費用で作り、最大の利益を上げるためには、全員が経営目標に向かって、それぞれの立場でキッチリと役割を果たしていかなければなりません。一般に、経営の目標は以下に示すように分けられています。

(1)良い製品〔品質管理〕 顧客の満足する製品を作る

(2)安いコスト〔原価管理〕 製造原価はできるだけ低減する

(3)短納期〔生産管理、作業管理〕 能率良く、生産性の向上を図る

 この目標を達成するにはいろいろな施策が考えられますが大きく分けて、1つは加工技術の向上を図ることで、もう1つは管理技術の向上を図ることに尽きます。特に、後者の「ものをうまく作る技術」、いわゆる管理の技術は体系化されて“IE”と呼ばれるようになりました。このように、IEは工場において経営目的を達成するうえに不可欠な活動であるといえます。

生産性向上とIE

 生産性を高めることは、生産の3要素でもある、

  • 工場の設備(Machine)
  • 材料(Material)
  • 人(Man)

の経営諸資源を最も効果的に活用して、単位時間当たりに、できるだけ多くの製品を造り出すことです。すなわち、生産性とは、生産されたアウトプットと経営資源の量との比率です。この生産性を向上させるために現場の第一線の管理者は、生産のためのいろいろな情報を収集し、計画、指令、統制し、作業者を動機付ける(ヤル気を起こさせる)とともに、「ムリ」「ムダ」「ムラ」排除のためにIE活動を展開していかなければなりません。この関係を示すと図1のようになります。

図1 現場の管理者の役割
図1 現場の管理者の役割

 一般に生産性の尺度として時間の単位がよく使われますので、この観点から生産の過程を考えてみる必要があります。作業者が1つの作業を行ったり、または一定量の製品を生産するために費やす時間(実働時間)は、図2に示すとおり、

  • 基本作業
  • 余計な作業
  • 無効作業

となるのが普通です。従って、生産性を高めるためには、図2のA、B、C、Dをできるだけ少なくする改善をしなければなりません。このような、ムダや無効時間を少なくしていくのが、いわゆるIE活動です。

図2 実働時間の実態
図2 実働時間の実態

 表1は、生産性の阻害時間であるA、B、C、Dに対するIEの解決方法をまとめたものです。

分類 IEの解決手法
A:製品に原因のあるムダな作業内容 ・製品分析
・専門化と標準化
・市場、顧客、製品などの調査分析
B:工程や方法に原因のあるムダな作業内容 ・工程計画
・工程研究
・方法研究
・作業者の訓練
C:経営者側に原因のある無効時間 ・資材管理
・専門化
・マーケティング
・標準化
・製品分析
・保全(PM)
・作業測定に基づく生産統制
・安全措置
・作業環境の改善
D:作業者が制御し得る無効時間 ・人事方針
・労務管理
・刺激給制度
・安全訓練
・作業者の訓練
表1 生産性阻害時間とIEによる解決方法

 生産性向上の1つの見方・考え方の例として、時間の側面に着目してみましたが、製造現場の生産性向上は、その要件も含めて、もう少し広くとらえて考え、取り組まなければなりません。

 生産性は、前述したように「インプットに対するアウトプットの比率を高める」といったとき安易に、

原価低減=>収益(お金)


と考えてしまいますが、収益は原価だけで決まるものではありません。企業にとっては「継続的な収益」が必要です。当然のことですが、品質が悪ければ商品価値が下がるだけではなく、売上高の減少につながっていきます。また、納期が守られなければ、顧客からの信用もなくなり、これも売上高の減少となるでしょう。特に、国内生産の最大のポイントは、品質と納期がシッカリ厳守されていることです。おそらく、原価だけを対象にすれば、中国や東南アジア諸国に勝ことはあり得ないでしょう。

 このように、生産性向上活動における製造現場の役割、すなわちIE活動は「Q(Quality)」「C(Cost)」「D(Delivery)」の総合的な向上であることは議論の余地はありません。また、優れたQCDを生み出すために、生産の3要素(3M)である設備(Machine)、材料(Material)、人(Man)を有効活用することであるといえます。


筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)


日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。



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