脱「まずは試作」で手戻り削減、イトーキが3Dデータ基盤で描くAI活用の未来:メカ設計インタビュー(2/2 ページ)
新たなオフィス空間の創出が求められる中、イトーキはCAD環境でのリアルタイム解析や生成AIを活用し、「まずは試作して評価する」という物理的な開発サイクルからの脱却を進めている。“壁打ち相手”としてAIを活用する独自のプロセスと、現場定着に向けた取り組みについてキーパーソンらに話を聞いた。
AIを壁打ち相手にし、設計者の“気付き”を促す
MONOist 生成AIを活用した「ジェネレーティブデザイン」は、具体的にどのように運用されていますか。
横田氏 当社のオフィス家具は意匠性が重要なため、AIが出力する形状をそのまま外観に採用するのは困難です。そこで、外からは見えない「補強リブ」など、内部の強度を担保する構造をAIに考えさせる使い方から始めました。
従来、内部の構造設計は設計者が自らの経験を頼りに試行錯誤を繰り返す必要がありました。しかし、ジェネレーティブデザインを用いれば、力学的な条件を入力することで1回目で大体最適解に近い答えが提示されます。
ただ、私たちはAIに最初から完璧な正解を求めているわけではありません。ツールで正解を得るというよりは、ひとまず「壁打ち」する感覚で試してみるイメージです。そうすることで強化すべきポイントなどの傾向が見えてきます。初期設計では厳密な数値よりも構造の方向性を把握することが重要であり、正解を出力させるためではなく、“設計者の気付き”を促すツールとして活用するプロセスが定着しつつあります。
MONOist 一連のツールを活用したことで、設計現場にはどのような効果や変化が生まれましたか。
横田氏 まず、企画やデザイン部門といった他部門とのコミュニケーションの質が変わりました。新しい椅子の形状の提案があった場合、以前であれば「取りあえず試作して、実機で評価する」という方法でした。
しかし今は、CAD上で簡易的なモデルを作成し、即座に解析できます。仮にデザインに懸念があっても、単に否定するのではなく、「ここを少し補強すれば成立する」と数値根拠を持った代替案を提示できるようになり、より建設的な議論ができるようになりました。
製品開発では全く同じテーマを二度扱うことはないため単純な数値比較は難しいのですが、観測している開発テーマでは確実に試作回数が減っています。設計側のメンバーからも「狙い通りの設計ができている」といったポジティブなフィードバックをもらっており、確かな効果を感じています。
現場にツールを定着させる「小さな成功」の積み重ね
MONOist 現場でのツール定着に向けて、どのような工夫をされたのでしょうか。
イトーキ 生産本部 生産DX統括部 ECM改革部 1チームの吉田章浩氏 DXツールは導入して終わりではなく、現場で使ってもらうプロセスこそが重要です。当初、ジェネレーティブデザインを提案した際も現場は静観気味で、すぐに使われたわけではありませんでした。
そこで「小さな成功」を積み重ねる手法をとりました。現場と一緒にモデルを作り対話を重ねることで、徐々に「次のテーマで使えないか」と相談が届くようになり、定着が進んでいきました。最初から完璧を目指さず、小さな成果をつなげることが大切だと考えています。
横田氏 また、試作などの従来手法を否定しない点も意識しています。「試作をするな」ではなく、ツールで事前に弱点を把握してから試作する有効性を伝えるよう徹底しました。
現在は作成したCADデータを全てWindchillへ集約するルールを徹底しています。これにより、特定の部門だけがデータを抱え込む状況はなくなり、CADを持たない他部門のメンバーでも手軽に情報を閲覧できるようになりました。わざわざ設計者にデータを見せてほしいと聞きに行く必要がなくなるなど、全社的な業務効率化につながっています。
PDMから真のPLMへ――「Office 3.0」が実現する新たな価値
MONOist ツールが現場に定着した今、今後のロードマップについてどのようにお考えですか。
横田氏 まずはWindchillの活用領域の拡大です。現状はCADデータや部品表などのPDM(製品情報管理)が中心ですが、本来の狙いは企画から販売後のサービスまで全体を管理する真のPLM(製品ライフサイクル管理)です。製造業における「製品の遺伝子」となる情報を一元管理する基盤を整え、将来のAI活用につなげようという機運が社内でも高まっています。
MONOist パートナーであるPTCとしては、今回のイトーキにおける取り組みをどのように支援してきたのでしょうか。
PTCジャパン ソリューションズコンサルティング ディレクターの財前紀行氏 当社では単にツールを提供するのではなく、事前の業務ヒアリングを通じて現場の課題を一緒に考える姿勢を大切にしています。今回は、国内外の先進事例を基に「手戻りをなくし、開発のスピードと品質を両立できる」という具体的な将来像を提示しました。
PLMの全社展開には部門間の壁がつきものですが、現場が納得して動けるよう段階的なサポートを継続しています。今後も反復作業をAIに任せ、設計者がイノベーティブな業務に集中できるよう、ソフトウェアの進化と業務改革の両面から伴走していきたいと考えています。
MONOist データ蓄積の先には、どのようなAI活用や未来を思い描いていますか。
横田氏 当社の「Office 3.0」構想がその基盤となります。これまでオフィス家具業界は、家具を製造/販売し価格競争になりがちなOffice 1.0から始まり、オフィス設計や働き方のコンサルティングで付加価値を高めるOffice 2.0へと進化してきました。私たちが次に見据えるOffice 3.0は、ITやDXの力で働き方そのものを変革し、社員のパフォーマンスやエンゲージメントを高める「生産性が高く魅力的なオフィス」を創出する世界です。
単に家具を提供して終わるのではなく、オフィスの利用状況や働き方のデータを基に空間を把握し、そのリアルな利用データを設計の現場にフィードバックします。そして、AIが新しい製品の代替案を出したり、将来的にはデザインから強度計算までを自律的に行ったりと、イトーキとして、これまでにない新たな価値を生み出し続けるサイクルを構築していきたいと考えています。
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