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ソフトウェア開発支援強化で「モノづくり大国」復活へ PTCジャパン神谷氏の戦略製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

2023年11月、PTCの日本法人であるPTCジャパンの社長執行役員に神谷知信氏が就任した。神谷氏はAdobeの日本法人で代表取締役社長を務め、事業のクラウド化などを推進してきた経歴を持つ。「デジタル技術を通じて『モノづくり大国』の復活に貢献したい」と熱く語る同氏に、今後のPTCの国内市場戦略を聞いた。

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 2023年11月、PTCの日本法人であるPTCジャパンの社長執行役員に神谷知信氏が就任した。神谷氏はAdobeの日本法人で代表取締役社長を務め、事業のクラウド化などを推進してきた経歴を持つ。「デジタル技術を通じて『モノづくり大国』の復活に貢献したい」と熱く語る同氏に、今後のPTCの国内市場戦略を聞いた。

PTCジャパンの神谷知信氏
PTCジャパンの神谷知信氏

SaaS化プロジェクトに長く従事

――Adobeの日本法人であるアドビから、PTCジャパンへと移った理由は何でしょうか。

神谷知信氏(以下、神谷氏) 一番の思いは、製造業のデジタル化を通じて日本を元気にしていきたいと考えたからだ。その上で、PTCに加わった理由は大きく分けて3つある。

 1つは国内製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れだ。国際経営開発研究所(IMD)が発表した2023年の「世界デジタル競争力ランキング」では、日本は前年よりも落ちて世界32位となった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経てグローバルではデジタル投資が加速したが、日本は後れを取っている。アドビではマーケティング寄りのDXを行っていたが、より国内の基幹産業にインパクトを与えられる仕事をしたいという気持ちが大きかった。

 2つ目がドイツにおけるPTC製品の採用率の高さだ。日本とドイツは製造業が主力な点で似た産業構造を持つ。そのドイツで、自動車産業を中心にPTC製品が爆発的に増えており、国内市場にも通じるというポテンシャルを感じた。

 3つ目がSaaS(Software as a Service)化の経験だ。アドビには2014年に入社したが、製品のSaaS化のプロジェクトに長く携わってきた。同社では一定の成功を収めたと自負している。製造業ではCADやPLMのSaaS化はまだこれからだが、これまでの経験が生かせると考えた。

――アドビでは製造業にどのように関わっていましたか。

神谷氏 電化製品や自動車などのB2Cメーカーの場合、Webサイトの構築やユーザーとのインタフェース構築などを行う際にAdobe製品が多く用いられていた。コンテンツの制作から配信までをカバーするプラットフォームとしても、Adobeは先行している。

 一例を挙げると、カシオ計算機では好みにカスタマイズした「G-SHOCK」を購入できるBTO(Built to order)サービス「MY G-SHOCK」を展開しているが、その裏で動くシステムの構築にAdobeが関わっていた。ユーザーの性別や年齢などの属性に応じて好むパーツの情報を蓄積することで、サプライチェーンの情報管理に役立てられるように進めている。PTCとしても、製造業のサプライチェーン領域をさらに支援できれば面白いと考えている。

ソフトウェア開発の負担を軽減する

――「MY G-SHOCK」の例もそうですが、国内製造業では多様化するユーザーの嗜好に合わせた多品種少量生産への対応ニーズが高まっています。PTCとしてどのようにアプローチしていきますか。

神谷氏 PTCではデジタルとフィジカルの世界をデジタルスレッドでつなげる「インフィニティループ」の実現をコンセプトとして掲げている。これまでPLMなどで設計領域のデータ管理は進んできたが、フィジカル世界で情報を集める動きはまだまだこれからというところだった。それがIoT(モノのインターネット)や関連技術、サービスの発展で、フィジカル世界のデータ管理がしやすい環境が整ってきた。PTCがしっかりとループをつなぐことで、顧客にとって大きなメリットを生み出せる。

 注力している戦略の1つが、モノづくりにおけるソフトウェア開発の管理支援を強化することだ。PTCが展開するアプリケーションライフサイクル管理ソフトウェア「Codebeamer」が、現在、欧州の自動車メーカーを中心に導入が進んでいる。国内のメーカーも興味を示しており、サプライヤーを巻き込んでCodebeamerを統一的に導入してもらえるようにしたい。

 多くの製造業が悩んでいるのが、ソフトウェアの品質を保証しつつ、ハードウェアと合わせて製品が持つ機能や特性を発展させていくプロセスが、まだ洗練されていない点だ。国内メーカーはソフトウェアでも品質を重視するので、中国や欧州のメーカーのように気軽にアップデートを重ねることが難しい。やらなければならないのだが、開発ボリュームを削りつつ、市場投入までの期間を短縮する方法が分からず悩んでいる。このためCodebeamerや、それと統合されたソフトウェアのバリアント管理ソリューション「pure::variants」への引き合いが強まっている。

 セキュリティ対策における負担の重さも課題だ。ソフトウェアのOEM開発は受け取った後に、サプライヤーによるテストが適正かを確かめるため、セキュリティ認証を取得しなければならないが、これが大きな負担になる。認証取得にプラスアルファで高品質性を担保しようとしているわけではなく、そもそも認証取得自体が大きな負担としてのしかかっている状況だ。

 特に自動車産業では、自動車基準調和世界フォーラム(WP29)が定めたセキュリティ法規への対応が課題になっている。PTCの製品はこうした法規や、機能安全のISO 26262に対応するための枠組みを提供できる。認証を取るために必要なデータが自然と集まるので、後から誰かが認証のために苦労してデータをかき集める必要がなくなる。セキュリティリスクの回避をプロセスで担保する仕組みが提供可能だ。

 欧州では特に安全基準や環境基準、個人情報の基準がハイレベルなものに設定されている。PTCはその一国であるドイツの自動車業界とともに、最適な仕組みや手法を考えながら作り上げてきた。他のベンダーと比較しても相当な強みだと自負している。

 これらに加えて、フィールドサービス支援アプリケーション「ServiceMax」を通じた保守サービスの効率性向上やコスト最適化の提案、AR(拡張現実)ソリューション「Vuforia」の認知度向上、PLMやCAD領域でのSaaS化などにもしっかり取り組んでいく。

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