脱「まずは試作」で手戻り削減、イトーキが3Dデータ基盤で描くAI活用の未来:メカ設計インタビュー(1/2 ページ)
新たなオフィス空間の創出が求められる中、イトーキはCAD環境でのリアルタイム解析や生成AIを活用し、「まずは試作して評価する」という物理的な開発サイクルからの脱却を進めている。“壁打ち相手”としてAIを活用する独自のプロセスと、現場定着に向けた取り組みについてキーパーソンらに話を聞いた。
働き方の多様化に伴い、オフィス家具に必要とされる価値は変化している。新たなオフィス空間の創出が求められる中、企画やデザイン部門からは、これまでにない形状や価値を目指したアイデアが次々と生まれるようになった。
一方で、アイデアを形にする設計部門では、試作や実機評価へ進む前の段階で「そもそも構造的に成り立つか」を見極める必要がある。オフィス家具の製造や販売を手掛けるイトーキでも、製品開発のスピードと質を向上させるべく、製造DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを推し進めてきた。
イトーキで製造DX改革を推進しているのが、生産本部 生産DX統括部 ECM改革部だ。特定の製品開発を直接担当するのではなく、CADやPLM(製品ライフサイクル管理)といったデジタルツールの導入や活用推進を通じた設計プロセスの標準化など、ワークプレイス事業部全体の設計部門を後方から支援する役割を担う。同社が取り組んだ、CAD環境でのリアルタイムシミュレーションや生成AIを活用した設計アプローチ、そしてデータ一元化の先にある「Office3.0」実現に向けたロードマップについて詳しく話を聞いた。
市場の多様化で限界を迎えた「設計、試作」の物理サイクル
MONOist 近年のオフィスの多様化において、製品開発の現場ではどのような課題があったのでしょうか。
横田氏 イトーキでは従来は製品ジャンルが明確に分かれていましたが、2023年ごろからはオフィスの多様化や、リビングライクな空間が好まれるといった変化が顕著になりました。それに伴い、Web会議など向けに吸音パネルを備えたボックス型の「サウンドソファ」や、色という共通要素で空間を調和させる「Workscene Colors」製品シリーズなど、従来のチェアやデスクという枠組みに収まらない製品の開発が増加しています。
加えて、顧客ごとのニーズに合わせた少量多品種の開発も増えています。大量生産であれば時間をかけて製品を作り込むサイクルで対応できましたが、少量多品種の時代では製品を素早く立ち上げ、開発サイクルをスピーディーに回していかなければなりません。
そのため新しい案がデザイン部や企画部から案が上がってきても、従来の「設計→試作→評価→修正」という物理的なサイクルを回していては、どうしても製品化までに時間を要してしまいます。後工程での手戻りを防ぐためにも、設計の初期段階で構造の“当たり”をつけ、試作の回数や手戻りを減らして開発を加速させる環境が必要でした。
さらに課題となっていたのが、データの分断です。これまでは製品ジャンルごとに知見やCADデータが蓄積され、サイロ化していましたが、カテゴリーを横断した新しい価値創造が求められる中、従来の縦割りのやり方では限界が見え始めていました。
一部の設計者しか使えない――環境設定の壁を乗り越え部門展開へ
MONOist これまでも3Dツールの導入を進めてきたと聞いています。
横田氏 当社における3Dツールの歴史は古く、1996年にPTCが提供する3D CADの「Pro/ENGINEER(現Creo)」を限定導入したことに始まります。ただ長らく特定部門での利用にとどまり、他部門では異なるCADが使われていました。そこで分散したデータを統合し、全社で効率的に開発を進めるため、2018年にPLMシステム「Windchill」を導入して全社的な3D活用へ舵を切りました。
そして、先ほど述べた課題の解決に向けて、2024年にCreoのオプション機能である「ジェネレーティブ デザイン」「リアルタイムシミュレーション」を追加導入しました。現在は当社の設計部門へ展開し、実際の商品開発に活用しています。
MONOist 市場にさまざまな解析ツールがある中、同一のソリューションを拡張し続けている理由は何でしょうか。
横田氏 最大の理由はツールの一貫性です。専用解析ソフトへのデータ移し替えは手間がかかりますが、設計構想の初期には構造の当たりをつける素早い判断が求められます。CAD環境のままシームレスに解析し、結果を即座にフィードバックできる速さに着目しました。データ変換のタイムロスをなくすことで、開発サイクルを加速させる狙いがあります。
イトーキ 生産本部 生産DX統括部 ECM改革部の龍野潤氏 以前も別のシミュレーションソフトは導入していましたが、ソフト自体が高度化していくことで、一部の設計者しか使えない状況になっていました。今回導入したPTCのリアルタイムシミュレーションツール「Creo Simulation Live」は、CAD上でのライセンスを追加するだけで、複雑な環境設定などをすることなく、同じ環境下で手軽に活用できるようになったことがポイントでした。
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