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原価の「見える化」はなぜ半年で形骸化するのか 犯人は機能不足ではなく「転記」受託加工業に必要な原価管理(4/4 ページ)

自社の原価を把握するため、高機能なシステムの導入や精緻なExcelフォーマットの作成など、さまざまな方法で見える化を進めても、その多くが半年ほどで形骸化してしまうのはなぜでしょうか。その原因は「転記」にあります。本稿では受託加工業にフォーカスし、「案件別の原価」が見えない構造と、転記をなくす「3つの設計原則」を解説します。

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3つの設計原則で何が変わるのか?

 転記が消え、案件別に原価が積み上がると、決算を待たずに判断できることが増えます。例えば、以下のようなことが可能になります。

案件が終わる前に、受注金額と原価の積み上がりを突き合わせて着地の粗利を見ることができるようになります。赤字の案件について「終わってから知る」状態から「走っている途中で気付く」に変化します。
見積原価と実績原価の差異が案件ごとに残り、どこで見積もりを外したかが次の値付けに返ってきます。
新しい引き合いに対して、構成の似た過去案件の実績を根拠にして見積もりを組めるようになります。勘と記憶からの卒業が可能です。

 現場でこの仕組みが回り始めると、「月次の全体像しか見えない」状態から「案件一つ一つの粗利が同じ土俵で見える」状態へ転換します。

最初の1カ月は、精度を求めない

 最後に、順序の話をします。今回紹介した3原則を満たす仕組みを用意しても、初日から精緻な原価が出るわけではありません。最初の1カ月は、数字の正しさより「全案件が同じ器に載っている」ことだけを目標にすべきです。単価が仮でも、経費の配賦が粗くても構いません。器が1つになれば、数字のおかしさは使いながら必ず見つかり、直すことができます。

 逆に、最初から精度を求めて入力ルールを分厚くすると、現場は初月で脱落してしまいます。形骸化した「見える化」の多くは機能ではなく、この立ち上げの順序でつまずいています。

 また、移行の起点は「進行中の案件」からで十分です。過去案件をさかのぼって入力し直す作業は、労力の割に得るものが少なく、現場の心を最初に折ってしまう典型です。現在動いている案件から器に載せ、過去は必要になったものだけ後から足す。完璧な過去より、続く現在が大事です。

原価管理は、大企業の管理会計ではない

 案件別原価管理と聞くと、大企業の精緻な管理会計を思い浮かべるかもしれません。しかし中小の受託加工業にとって必要なのは、精緻さよりも先に「この案件はもうかっているか」を、案件が終わる前に「勘でなく数字」で把握できることです。

 そして、そのために必要なのは、高機能なシステムでも難しい理論でもありません。むしろ機能を足すほど遠ざかります。解はたった1つ、転記をなくすこと。これだけです。原価管理に困っている人は、まずここから始めてみましょう。

筆者紹介

鈴木勇剛(すずき ゆうご)
株式会社Whitebell 取締役

防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊し、整備工場長として整備工程と要員の管理に従事。その後日系コンサルティングファームに転じ、大手製造業を中心に間接材料費の削減や業務プロセスの自動化、効率化に携わる。

2026年に株式会社Whitebellを共同創業し、受託加工、個別受注型の製造業向け原価管理システム「Cosmil」の企画/設計/開発を自ら担当。併せて製造業向けITアドバイザリーとして、現場の原価の可視化/業務効率化/価格転嫁の実務を支援している。


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