iPSで作った心臓を圧力で鍛え上げる!? 人工心筋を成人の心臓に変える新技術:医療技術ニュース
理化学研究所らは、ヒトiPS細胞由来の3次元人工心筋組織に高圧、短時間、間欠的な圧力刺激を加えることで、成人の心臓に近い状態へ成熟させる新技術を開発した。
理化学研究所は2026年7月24日、ヒトiPS細胞から作製した3次元人工心筋組織(ECT)に対し、高圧、短時間、間欠的な圧力刺激を加えることで、心筋組織をより成人の心臓に近い状態へ成熟させることに成功したと発表した。京都大学、東京大学、関西医科大学らとの共同研究による成果だ。
研究グループは、生体内で心臓が受ける力学的環境に着目し、ECTに短時間かつ間欠的な高圧刺激を与える「加圧トレーニング」方法を開発した。作製後2週間培養したECTに対し、50kPaの圧力を1日1時間、3日間だけ加える処理を実施した。この圧力は、通常培養時の静水圧の約1000〜2500倍に相当する。
その結果、心筋細胞が一定方向に整列し、エネルギー産生を担うミトコンドリア量が増加して酸素消費量やATP産生能が向上した。拍動頻度の上昇に応じて収縮力が高まる「陽性力頻度関係」も確認された。これは、成人心筋に見られる機能的特徴の1つだ。
単一細胞RNAシーケンス解析でも、成熟した心筋に特徴的な遺伝子群の発現増加と、未熟な心筋に特徴的な遺伝子群の発現減少が確認されている。また、血管内皮細胞を含めないECTでは、加圧トレーニングの成熟効果がほとんど認められず、血管内皮細胞が圧力を感知して心筋組織全体の成熟化を促進することが示された。
加圧トレーニング後のECTについて血管網形成を促す流体培養をすることで、より高度な成熟状態に到達したことも確認された。心筋梗塞モデルラットへの移植実験では、移植4週間後に左心室駆出率の増加による心機能の改善が認められ、ヒト由来心筋組織の生着や新たな心筋層の形成も確認された。
ヒトiPS細胞由来心筋は、再生医療や創薬研究への応用が期待される一方で、胎児の心筋に近い未熟な性質を持つ。今回の成果は、iPS細胞由来の心臓組織を鍛えて成熟させるという、新たな概念を示すものとなる。再生医療用の移植用心筋組織の機能向上に加え、より忠実な薬剤評価系や心疾患モデルの開発につながることが期待される。
今後は、移植用人工心筋の大型化や血管網形成技術の高度化を進めるとともに、大動物を用いて有効性や安全性の評価を実施する予定だ。創薬研究への応用は数年以内の研究利用、再生医療としての臨床応用は5〜10年程度を見据えて研究開発を進めるとしている。
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