口腔内細菌が放出する細胞外小胞が大腸がんの発症に関わることを解明:医療技術ニュース
東京大学は、口腔内細菌の1種A. odontolyticusが大腸がんの初期発がん過程に密接に関与することを明らかにした。A. odontolyticus由来の細胞外小胞が大腸上皮細胞で炎症やDNA損傷を引き起こしていた。
東京大学は2024年2月2日、口腔内細菌の1種アクチノマイセス・オドントリティカス(A. odontolyticus)が、大腸がんの初期発がん過程に密接に関与すること、またそのメカニズムの一端を解明したと発表した。
A. odontolyticusは、大腸がんの発がん初期段階の患者の便中に多く存在する。研究グループは、A. odontolyticusが大腸がんの発症に直接的に関与するという仮説のもと、A. odontolyticusと不死化ヒト大腸上皮細胞を共培養し、大腸上皮細胞で炎症を起こすことを確認した。
また、A. odontolyticusと同じ口腔内細菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)も、大腸上皮細胞で炎症を引き起こし、大腸がんの進展に関わることが知られている。しかし、F. nucleatumの病原性で重要な腸管上皮細胞への接着性は、A. odontolyticusでは低く、メカニズムが異なることが分かった。
A. odontolyticusが大腸上皮細胞で炎症を起こすメカニズムを解明するため、腸内細菌が産生する細胞外小胞「MVs(膜小胞)」に着目して検討を進めたところ、MVsがTLR2(Toll様受容体2)に作用し、炎症性シグナルを亢進することが示された。
続いて、A. odontolyticus由来のMVsは、腸管上皮細胞内で活性酸素種を増加させDNA損傷をもたらすことも明らかになった。同MVsは、培養細胞株だけでなくヒトiPS細胞由来のミニ腸モデルでも腸管上皮細胞のDNA損傷を引き起こした。さらに、マウスの大腸に経肛門的に同MVsを注入し続けると、DNA損傷に加えて腸管上皮に異形成が発生した。
DNA損傷につながる活性酸素種の増加には、A. odontolyticus由来のMVsが大腸上皮細胞に取り込まれることが必須であることも明らかとなった。取り込まれた同MVsがミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの機能障害を起こすことで、活性酸素種が過剰に産生される。
今回の研究成果は、大腸がんの新たな治療法や予防法の開発に貢献することが期待される。
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