データスペース時代に日本企業はどう備えるか、NTTグループが進める仕組みづくり:加速するデータ共有圏と日本へのインパクト(10)(5/5 ページ)
欧州を中心に広がるデータ共有圏の動向と、日本産業への影響を解説する本連載。第10回では、データスペースのグローバルな普及を見据え、日本企業が安全かつ容易に接続できる環境の整備を進めるNTTグループの取り組みを紹介する。
データスペース運営事業者の重要性と「経済安全保障」
現在、Catena-Xの仕組みを利用するには、日本の企業であっても、欧州のルールに従ってトラストサービスを提供するGaia-X Digital Clearing House事業者にデジタル身分証を発行してもらい、ドイツのデータスペース運営事業者(Cofinity-X)と直接契約を結ぶのが一般的だ。しかし、経済安全保障やデジタル主権、データガバナンスの観点からは、重要な産業データの通信に不可欠となるトラスト基盤を海外の法人に依存し続けることは望ましくない。
もしその国と敵対関係になってしまった場合に、トラスト基盤の利用を停止され、セキュアな通信ができなくなる可能性があるためだ。将来的には、電話事業者やインターネットサービスプロバイダーのように、日本の法律で保護されたトラストサービス事業者とデータスペース運営事業者が立ち上がり、それらが各国の事業者と相互接続する世界が期待されている。
ウラノス・エコシステムとオープンデータスペースが目指す国際相互運用性
その仕組みの1つとして、日本国内で推進されているのが「ウラノス・エコシステム」だ。ウラノス・エコシステムは、特定の巨大システムを作るものではなく、業界や企業をまたぐデータ連携の構想を持った「イニシアチブ」である。
現在この構想は「オープンデータスペース」という概念へと発展しており、業界ごとに分断されたデータ連携基盤を構築するのではなく、国際相互運用が可能なデータ交換の仕組みをよりシンプルかつスマートに構築するための「レファレンスアーキテクチャ」の策定が進められている。
ドイツの産業向け展示会「ハノーバーメッセ2026」では、ウラノス・エコシステムの先端ユースケースとして、バッテリートレーサビリティーを確保する自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(以下、ABtC)の取り組みや、製品含有化学物質情報/資源循環プラットフォーム(CMP)の取り組みが紹介された。
データ連携の輪に加わるためのコストやデータスペース技術の複雑な仕組みは、特に中小企業にとっては大きな参入障壁となっていた。しかし、欧州のプロジェクトなどでも、中小企業がデータスペースのサービスを手軽に利用できるフルマネージドの仮想的なデータスペース(SaaS型サービス)「Dataspace as a Service」の開発と提供が進められている他、データスペースを利用する企業に政府が助成金を給付する「Data Space Accelerator」が開始されており、デジタルトラストやデータスペースを誰もがPCやスマートフォンでAIと組み合わせて簡単に利用できる時代がやってくるだろう。NTTドコモビジネスの「データスペース接続ハブ」もまさにその先駆けとなるアプローチだといえる。
まとめ:データスペースを日本産業の飛躍の契機に
データスペースは現在、ルールの策定やアーキテクチャの標準化、インタフェースの簡素化、マネージドサービス化、AIとの融合が進む過渡期にある。しかし、国境や業界を越えたデータ連携がビジネスの前提となる時代は、着実に近づいている。
日本企業は、この大きな変化を「脅威」としてではなく、サプライチェーン全体を高度化し、業務プロセスのスピードを高め、データ利活用のコストを削減して、新たな価値を創造するための「最大のチャンス」として捉えるべきだ。
NTTドコモビジネスをはじめとするインフラ事業者のサポートや、オムロンのような最先端のソリューションを活用し、大企業から中小企業までが手を取り合い、世界をリードする新たなデータエコシステムを築き上げていくことが強く期待される。
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筆者紹介
小宮昌人(こみや まさひと)
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施。
(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援
専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム/リカーリング/ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティー・スーパーシティー、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)、『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)があり、2024年11月には『生成<ジェネレーティブ>DX 生成AIが生んだ新たなビジネスモデル』(SBクリエイティブ)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
- 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp
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