日本の製造業の「投資しても稼げない」実態 付加価値を生まない構造の正体:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(48)(4/4 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回は、OECDのデータベースを基に、日本製造業の付加価値と投資の関係について紹介します。
付加価値と分配の関係
SNAで示される重要な観点は、稼ぎ(付加価値)とその分配の構造を明確にしている点です。
経済の仕組みとして、稼いだ付加価値はその生産に貢献した要素に次のように分配されます。
- 家計:雇用者報酬(企業から見た人件費)
- 企業:営業余剰(純)(企業会計における営業利益に相当)
- 政府:生産/輸入品に課される税−補助金(消費税や関税など)
- 資本:固定資本減耗
純付加価値とは、図8のうち、資本の維持費用を差し引き、雇用者(家計)、企業、政府で分け合うことのできるお金の総額といえます。日本の場合は、資本の維持費用がかさんでいることで、この純付加価値が大きく目減りしていることになるのです。
そうすると、企業自身の取り分も減り、人件費も抑制的になりますね。これは製造業に限らず日本企業全体としても同様の傾向です。投資が多い割に付加価値が増えなかったことで、企業自体や労働者の取り分が目減りしてきたことになります。
この連載でもさまざまな統計で、日本の労働者の低所得化や貧困化についてもご紹介してきましたが、その大きな要因の1つといえるのが、バブル期から続く資本の維持費用です。
つまり、投資が「安く大量に作る規模の経済」にばかり振り向けられ、高くても売れる(買える)ような変化が進まなかったことで、付加価値(価格×数量)の停滞が続いてきたことが読み取れます。たくさん作っても、その分安くしていれば付加価値は増えません。
この間、国内ではデフレが続き、中国など新興国の安価な製品との価格競争が続いてきました。そして、近年では日本は安い国となりました。かつてのように日本で作ったモノは高いという状況ではなくなりつつあります。
今後日本は少子高齢化が進み、国内市場は少しずつ縮小していきます。規模の経済ばかりを追うのではなく、機能や性能、生産規模に応じた適正価格でのモノやサービスを生み出し、国内で生まれる付加価値を増やしていく必然性が出てきています。
海外でも評価される高付加価値なモノを生み出し、積極的に輸出で稼いでいくことの重要性が今まで以上に高まっているといえるでしょう。あるいは、世代交代が進むことで、今まで本来の価値を認められてこなかった仕事に、適正な価値が付け直され始めている面もあります。
これからは、良いモノを安くたくさん作る方向だけでなく、高くても売れる価値の高いモノを生み出す方向にも、投資が振り向けられていくとよいのではないでしょうか。投資と付加価値の関係を国際比較することで、このような日本製造業の課題と展望が浮き彫りとなります。
次回は、そのような日本の製造業が一体何に、どれくらい投資してきたのかを可視化してみたいと思います。
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筆者紹介
小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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