OTとITの壁を打ち破れ、Brain Edge稲葉氏が語る“システム自律化”:ITmedia Virtual EXPO 2026 冬 講演レポート
深刻化する人手不足や設備の老朽化など、日本の製造業が抱える課題は多い。本稿では、「製造業を取り巻く課題に対する自動化へのアプローチ 〜IoT活用の可能性を探る〜」と題してBrain Edge 代表取締役社長の稲葉清典氏が行った講演を基に、ロボットの自律化や「OTとITの壁」を打破するIoT活用の具体策などについて解説する。
アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、Tech Factoryは、転機を迎える日本のモノづくり製造業の「今」と「未来」をつなぐ国内最大級のオンライン展示会「ITmedia Virtual EXPO 2026 冬」を2月10日〜3月13日に開催した。豊富な成功事例や専門家の講演などを通じて、製造業が抱える課題の解決や、今後のモノづくり戦略を考える上での具体的なヒントを提供した。
本稿では、「製造業を取り巻く課題に対する自動化へのアプローチ 〜IoT活用の可能性を探る〜」と題してBrain Edge 代表取締役社長の稲葉清典氏が行った講演の一部を紹介する。
深刻化する人手不足、熟練技術者の引退、設備の老朽化など日本の製造業は今、さまざまな課題に直面している。そのような中、さらなる生産性向上に向けて、ロボットやIoT(モノのインターネット)を活用した自動化への取り組みが求められている。講演では、特にIoTに焦点を当て、製造現場の課題解決に向けた第一歩となるアプローチ、考え方を解説した。
日本の製造業が直面する課題、解決のカギとなるロボットの自律化
日本では近年、生産年齢人口が減少に転じている。製造業や建設業、鉱業が該当する第二次産業に携わる人口は、1970年の34%をピークに20%程度にまで下がっている。GDP(国内総生産)における製造業の割合も低下し、1980年に3割程度あったものが、2022年には約2割に縮小している。国内の経済規模を維持していくには、外貨の獲得は一層重要になる。こうした中で「製造業における輸出拡大は日本にとって大きなミッションの一つだ」と稲葉氏は強調した。
日本の貿易収支は赤字基調が続いている。輸出を拡大するには、製品の付加価値を高めることが不可欠だ。従来は製造ノウハウやすり合わせという技術が差別化の源泉だったが、近年はソフトウェア、データ技術などの重要性が増している。日本のモノづくりの競争力を高めるためにもデジタル技術の応用が重要となるが、一方で、日本のデジタル関連収支は2024年には6.7兆円の赤字となっている。「さまざまな分野でデジタル技術が活用されており、それらのツールを使うこと自体は自然なことだ。私自身は将来的に、IoTを含めた自動化技術を通じて日本企業の価値、技術を世界に発信することに少しでも貢献できればと考えている」(稲葉氏)。
その手段の一つとして挙げるのが、ロボットによる自動化の技術だ。稲葉氏は「従来より“深い”ロボット活用が求められており、それを実現する上でカギとなるのがロボットシステムの自律化だ」と指摘する。そして、自律化をセンシング、デジタライゼーション、コントロールのループだと説明した。例えば、ビジョンシステムによってセンシングすることで現場の環境を捉え、データ化(デジタライゼーション)し、そのデータを分析、活用してロボットをコントロールして自律的な動作を実現できる。
その一例として、稲葉氏は興和オプトロニクスのロボットシステムを紹介した。2D/3Dカメラなどの光学系やロボットを組み合わせて構築しており、その光学系は耐油、防じん、防水などの高い耐環境性能を備えている。
センシングを活用している事例としては、しのはらプレスサービスの自動起動式ガード式安全装置「シャッターガード」を取り上げた。シャッターガードは作業者とプレス機の間に設置することで、人間がプレス機に手を挟んだり、機内で金型などが飛散したりした際のけがを防ぐ。協働ロボットの活用も可能で、シャッターガードに搭載されている2つのセンサーがロボットのアームの出入りを確認するため、プレス機とロボットとの電気信号のやりとりが不要となっている。エリアセンサーが作業者の接近を感知すると、自動的にロボットの動作速度を遅くできる。安全柵が不要となり省スペースでの自動化、人との協働作業を実現する。
現場に立ちはだかるOTとITの壁をいかに壊すか
そして、もう一つの手段として挙げているのがIoTを活用した、情報自動化の技術である。だが、製造業のシステムは、現場のシステムと情報システムの組み合わせとなっており、OT(制御技術)層のセンサー/機械、制御(PLC)から、IT層の監視(SCADA)、製造実行(MES)、統合管理(ERP)というように幾つもの層に分かれている。「現場を回る中で強く感じたのは、特にOTとITの壁だった。Brain Edgeでは、パートナーと一緒になってこの壁を壊していく」(稲葉氏)。
その第一弾として、Brain Edgeでは「Edge Box」というパッケージをリリースした。Edge Boxは、さまざまな現場の機器から生まれる異なる仕様のデータを共通言語化し、OT側とIT側が容易に連携できるようにする。並行して、AI(人工知能)を含めた多様なアプリケーションや基幹システムとの連携も推進している。
Edge Boxを活用した自動化システムの一つとして、NASCOのから揚げラインを紹介した。このから揚げラインでは、鶏肉を一次カット/二次カットするカット機を2台、さらにパラレルリンクロボットを2台採用している。作業者が一次カット機に鶏肉を投入すると、カットされた鶏肉をロボットがコンベヤー上で2列に並べて二次カット機に送る。二次カット機では2レーンでから揚げサイズにカットする。これにより大幅な省人化と生産量増を果たすことができる。
食品製造ラインでは工程ごとにメーカーが異なる機械を導入しているケースが多い中、Edge Boxでデータを一元管理することが可能になった。続いて、豊電子工業における物流システムの事例も取り上げた。
Edge Boxはダッシュボード機能を標準パッケージとして提供している。表示する内容、グラフの位置、大きさなどダッシュボードの構成は内蔵のBIツールで変更できる。また、複数の機器を接続して運用する場合は、どの機器のデータをダッシュボードに反映させるのか直感的に選択でき、導入後の拡張性も担保している。その他、機械状態を可視化するCNC SCREEN on FIELD(スクリーンオンフィールド)というアプリケーションを標準搭載している。これは、各機器の稼働率などの状態を個別に確認するという用途に適している。
最後に、品質情報と加工情報を結び付ける高度な加工データベースの構築に取り組む山本金属製作所の事例を解説した。
稲葉氏は今後、Edge Boxの使いやすさを追求していくとともに、実際に現場の作業者に触ってもらう機会の提供にも力を注ぐ。具体的には、東京都日野市の拠点に工作機械、ロボット、PLC、センサーなどの実機をそろえ、実際にIoT機器の立ち上げが体験できる環境を整備し、人材教育に積極的に取り組む。
「自動化が進むほど、現場で働く人の力がこれまで以上に重要になる。技術だけで全て解決できるのではない。人が考え、判断し、挑戦し続けるからこそ、技術は真の価値を発揮する。時代は変わっても、日本の製造業の現場の底力は通用すると信じている」(稲葉氏)
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