リサイクルリチウムの次世代生産技術、核融合発電の燃料製造に役立つワケ:リサイクルニュース(3/3 ページ)
LiSTieが、使用済みリチウムイオン電池から1枚のセラミックス膜で高純度リチウムを抽出する技術の実証機を開発した。実証機は市況の5分の1という低コストでリサイクルリチウムを製造できる。同技術は核融合発電の燃料製造に役立つという。そのワケとは――。
セラミックス膜を5000枚搭載したコンテナ型LiSMICユニットを開発
LiSTieはベンチプラント実証機の実証実験を行った後、セラミックス膜を5000枚搭載したコンテナ型LiSMICユニットの開発/設計を量子科学技術研究開発機構(QST)とともに2027年にスタートする。コンテナ型LiSMICユニットは、サイズが40フィート(約12m)サイズで、使用済みリチウムイオン電池などを基に、1年当たり570tの水酸化リチウムを生産できる見通しだ。
コンテナ型LiSMICユニットの開発に当たっては、スタートアップや中小企業を支援する文部科学省の「SBIR制度」で獲得した15億円の補助金を活用する。2027年には、市町村や家電量販店などが回収した使用済みリチウムイオン電池を焙焼してブラックマス化したものから、LiSTieがLiSMICユニットによりリチウムを回収することも目指す。
星野氏は「当社はQSTの認定ベンチャーであり、文部科学省のSBIRなどの支援を受け、LiSMICの社会実装を国内外に広げようとしている。2027年にはリチウムイオン電池のリサイクルを実装したい。都市鉱山に眠るリチウムを回収し、電池メーカーや材料メーカーへ出荷するビジネスモデルを想定している。2030年にはリサイクルの法規制も進み、(リサイクルリチウムの)需要は拡大する。当社が持つ低コストなリサイクルリチウムの製造技術であれば、国内外で必要なリサイクルリチウムのうち、大きな割合をカバーできると見ている」とコメントした。
コンテナ型LiSMICユニットの展開に関して、日本や欧州、米国においては使用済みリチウムイオン電池のリサイクル、米国やオーストラリアにおいてはリチウム鉱山でのリチウム抽出を想定している。立地的に塩湖からリチウムを回収できる南米、チリ、アルゼンチン、ボリビアを対象に装置の販売も行う見通しだ。
将来の展開とタイムライン
2040年以降は、LiSMICを活用し、天然リチウム中に7.6%しか存在しないリチウム6をLiSMICで90%まで高め、核融合発電を行う企業に提供を開始する。核融合発電の燃料にはトリチウム(三重水素)が必要だが、自然界にはほぼ存在しないため、中性子をリチウム6に当てて人工的に作り出す必要がある。
「自然界のリチウムの92.4%はリチウム7であり、核融合発電の燃料であるトリチウムの製造に役立つリチウム6はわずか7.6%しか含まれていない。リチウム6はリチウム7よりもわずかに軽く、LiSMICのセラミックス膜の中を移動する速度が(リチウム7より)『ほんの少しだけ速い』という性質を持つ。そのため、速度差を利用して分離/濃縮が可能だ。現在、QSTとの共同基礎研究において、この速度差を利用してリチウム6を分離できる現実的な検証が完了している。2040年代の核融合発電実証炉に向けて、安定供給を目指す」(星野氏)。
現在、国内外でリチウム同位体を分離できるのはロシアや中国などに限られていることに加えて、両国はリチウム同位体の分離に環境負荷が高い「水銀アマルガム法」を採用しているという。
星野氏は「日本を含む国内外の核融合発電開発国は、水銀アマルガム法に代わるクリーンな分離技術を求めている。LiSMICはその最適解となる可能性を秘めている。2030年代後半に計画されているQSTの核融合発電実証炉(原型炉)の稼働に向け、LiSTieはリチウム6の安定供給という国家プロジェクトレベルの貢献を見据えている」と強調した。
今後のタイムラインに関して、2027〜2028年ではシリーズAラウンドで調達した資金を活用し、LiSMICユニットの初号機と試作機の開発/設計を行う。水酸化リチウム製造能力は初号機が1年当たり300tで、試作機は600tになる見込みだ。
2028〜2029年ではシリーズBラウンドで調達した資金を用いて、LiSMICユニットの量産工場を建設する。「量産工場の建設地は、JFEスチールの製鉄所跡地などがあり、スタートアップ誘致に積極的な川崎市を有力候補として検討を進めている」(星野氏)。
2030年以降は、LiSMICユニットを量産する海外工場や同ユニットを用いたリサイクルリチウムの生産プラントの建設、塩湖からのリチウム抽出を狙う企業へのLiSMICユニットの販売、リサイクルリチウムの海外生産を予定している。
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