リチウムイオン電池リサイクル技術の現在地:LIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(6)(1/4 ページ)
本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。最終回となる第6回ではこれまでのまとめとリチウムイオン電池に関する研究論文の特徴を取り上げる。
1 水熱/超臨界流体
1−1 サーキュラーエコノミーとグリーンケミカルプロセス
化学物質のライフサイクルで人体および環境への負荷を低減する技術の総称を意味する「グリーンケミストリー」では、化学産業で、廃棄物を出さないことや循環性の化学物質を使うこと、危険性のないものを用いることもコンセプトとしている[参考文献1]。
この考え方は化学プロセスにも当てはまる。グリーンケミストリーとそれを基礎とする化学技術を成立させるためには、化学産業で生産される製品でできる限り、循環性を持たせることが肝要である。そのために、昨今、製造→流通→消費→廃棄からなる商習慣「リニアエコノミー」から、製造→流通→消費→回収→再生→製造→……とする「サーキュラーエコノミー」への大転換が求められており、その導入シナリオも各国の事情に合わせた検討がなされている[参考文献2]。
製品/産業のサーキュラリティー(循環性)を担保する方法は複数存在するが、筆者の研究グループは、主として水平リサイクルを意識した再生技術の開発を進めている。その開発では、グリーンケミカルが求める『循環性』と『安全性』に鑑み、水、CO2、バイオマス由来分子に注力したプロセス開発(グリーンプロセス開発)を進めてきた。特に媒体として活用している水とCO2について、再度基礎的事項を確認する。
水熱/超臨界流体に共通する技術基盤は、温度と圧力の制御による密度の制御である。図1は水とCO2の密度−圧力の等温線である。図1の左は水の相図である。これでは、水の臨界点は374℃、22.1MPaであり、温度と圧力で水の密度がどのように変化をするかを示している。液体状態で100℃以上の水を水熱と呼ぶことが多い。図1の右はCO2であり、その臨界点(31℃、7.3MPa)を超えた温度と圧力の状況にあるCO2を超臨界CO2という。
水熱条件(ここでは特に、100℃、大気圧を超える液体および超臨界状態の水を指すこととする)では、温度により液体状態の水の密度が変化する。それにより水の物性も変化するため、単純に温度による反応速度の加速効果が発生する他、有機酸の解離性、無機イオンの溶解性なども変化し、さまざまな有機酸を浸出剤として活用できるようになる。
超臨界CO2は、温度と圧力で密度が変化し、さらに適切な助溶媒を添加することで、溶解性を大きく制御することができる。こうした反応性と溶解性(分離性)の高度な制御性に加え、地球に本来存在する物質として水とCO2を用いることこそ、グリーンケミカルプロセスの開発において超臨界流体が中核にあることの本質である。
1−2 筆者らの成果と今回の目的
この連載ですでに紹介した通り、図2に示したリチウムイオン電池(LIB)循環利用の概念を具現化すべく、筆者らは主として水熱条件の活用による正極材から各種構成元素の酸浸出について、層状構造のコバルト酸リチウム(LCO、LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LNO、LiNiO2)、三元系正極材(NCM、NixCoyMnzO2)、スピネル構造のリチウムマンガン系スピネル酸化物(LMO、LiMn2O4)、オリビン型のリン酸リチウム(LFPO、LiFePO4)など各種正極材への適用性を検討し、それぞれの浸出挙動ならびに、元素単離技術について検討し、その結果を適宜論文として報告し[参考文献3〜14]、併せて知財獲得も進めた[参考文献15〜17]。
また、筆者らの研究グループでは、図2に示した通り、水熱プロセスによるLIBの循環性を担保すべく、負極材をバイオマスから合成するプロセス開発も進めており、一定の成果を得ている[参考文献18〜20]。さらに、筆者らが取り組んだJST未来創造事業では、超臨界CO2抽出によりコバルト(Co)とニッケル(Ni)の単離濃縮に関する検討を実施したが、連載第4回で説明した通り、さらなる検討が求められる状況であった。
一方、リサイクルは資源の循環性/再生可能性を追求することであるため、プロセスにもその概念を適用すべきだという考え方がある。その考えに基づき、水熱条件や超臨界CO2といったグリーン溶媒を反応および分離場として用いたLIBリサイクル技術における各種要素の研究が増え続けている。これらは基礎研究の段階にあるものが多いと思う。
こういった最近の水熱技術および超臨界CO2を用いたLIBリサイクルの要素研究について、それぞれの要素技術に関するいくつかの論文を紹介したい。
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