超臨界流体技術の進展がリチウムイオン電池リサイクル工業化の決め手になる:LIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(4)(1/4 ページ)
本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。第4回では「JST未来創造事業の実施内容」を取り上げる。
1 酸浸出と金属単離に関する研究の概要
1-1 酸浸出
リチウムイオン電池は現行の蓄電池の中で最大の容量を有し今後も需要拡大は続くとみられている。そのため、さまざまな電池メーカーが低コストのリチウムイオン電池製造ラインの開発を進めている。そんな中、より安定かつ安価に製造ラインを維持するために、工場内および外部で回収したリチウム電池から必要な部材を取り出し全てを再利用することが求められている。
そのために、リチウムイオン電池では、正極、負極、セパレータの各種部位を筐体へ簡単にスタックできるようにしなければならない。それらを簡易に分解/分離可能な構造とラインのデザインも設計する必要がある。
リチウムイオン電池には、正極材料としてリチウム、コバルト、ニッケル、マンガンといった金属元素が、電極素材としてアルミ箔と銅箔が採用されており、それぞれが必須元素として利用されている。それらをリサイクルするためには、それぞれを効果的かつ安価に分離/濃縮する技術が必要となる。
正極材の構成元素であるリチウム、コバルト、ニッケル、マンガンについて、これまでは、80〜90℃、濃度が2mol/L(溶液1L中に溶けている目的物質のモル数)以下の硫酸(プロトン供与体)と濃度が10%以下の過酸化水素(還元剤)を用いて浸出反応させて回収していた。
しかし、この回収方法は、利用する薬剤の種類と使用量が多いだけでなく、浸出率が低い(7割程度)という課題があった。そこで、著者の研究グループでは、市販のリチウムイオン電池正極材「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」「ニッケル酸リチウム(LiNiO2)」「マンガン酸リチウム(LiMnO2)」のそれぞれを水熱有機酸浸出(100〜150℃、有機酸濃度が0.1〜0.4mol/L、反応時間が5〜60分)で処理する検討を行った。
その結果、いずれの正極材でもほぼ100%の回収率で浸出可能であることを確認した。加えて、過酸化水素のような爆発性を持つ薬品を利用しておらず、硫酸のような中和処理により新たな廃棄物を生み出す薬剤を使用していないという利点があることも分かった。さらには、全ての正極材に適した条件設定により対象とした各リチウムイオン正極材を完全に水溶液中に抽出できた点は革新的であり、世界に先駆け新たに見いだした知見である。
また、実際の廃棄リチウムイオン電池(筐体込みで焼却処理により放電した後、粉砕し粗く選別した黒色固体)を対象に、水熱クエン酸浸出の適応可否を検討した。そうしたところ、2mol/Lのクエン酸濃度と200℃の水熱条件を必要とはするものの、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンいずれも全てを溶液中に回収できることを確認した。
この水熱クエン酸浸出プロセスでは、クエン酸はプロトン供給源となるばかりでなく、錯体形成と酸化還元にも貢献している。
このことを踏まえつつ、水熱クエン酸浸出プロセスの前処理方法の設計では、リチウムイオン電池正極材の構造やクエン酸濃度、浸出温度、冷却回収時における溶解の可否なども考慮する必要がある。これを実現するためには定量的な数学モデルの構築が必須だ。そこで、著者の研究グループでは、水熱酸浸出プロセスの最適化に向けた数学モデルの構築を目指し、検討も進めている。また、水熱クエン酸浸出プロセスの実証/実用化には連続水熱プロセスの構築も必須となるためその検討も実施している。
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