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リチウムイオン電池リサイクル技術の現在地LIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(6)(2/4 ページ)

本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。最終回となる第6回ではこれまでのまとめとリチウムイオン電池に関する研究論文の特徴を取り上げる。

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2 水熱条件と超臨界流体を利用したLIB再生技術の論文検索

 「Hydrothermal、Lithium Ion Battery、RecycleもしくはRegeneration」を検索ワードに、統合学術プラットフォーム「Web of Science」で検索した。併せて、内容の関連性から絞り込みを行った結果、表示された26件の論文について紹介する[参考文献21〜45]。

 これらの論文では、筆者らの研究グループでの研究内容と同様の、水熱酸浸出による金属元素の水溶液への回収に関する検討[参考文献21〜26]に加え、直接再生法におけるリチウムイオンの充填技術への水熱技術の応用に関する検討[参考文献27〜43]も多くなされている他、新たな工業プロセスである水熱LIB関連技術に関連した、腐食[参考文献44]やMn材料に関するCo吸着挙動[参考文献45]に関する研究も報告されていた。

 超臨界CO2でも同様に、「CO2、Lithium Ion Battery、Recycle」などをキーワードにWeb of Scienceで検索し、内容の関連性で絞り込んだところ、21件が抽出された[参考文献46〜66]。

 これらの論文の中には、超臨界CO2中への金属抽出の論文[参考文献46、51]も見られたが、依然としてそれほど多くは報告なされていない。石油溶剤の使用が制限されることが今後加速されるとなると、検討事例はまた多くなるものと予想する。

 また、水溶液中への金属溶出を目的に酸性物質として用いた、いわゆる酸浸出の浸出剤として超臨界CO2の利用も数件[参考文献47〜48]見られ、さらには浸出させたリチウムイオンを炭酸化させてリチウム炭酸塩として単離する検討も複数見られた[参考文献48〜50]。

 さらに、超臨界CO2の利用事例で最も多く見られたのは、電解質ならびにバインダーの分離/回収による正極材アルミシートからの、正極材の剥離/濃縮[参考文献52〜66]である。このプロセスの適用は、再生技術における課題のいくつかを解決する手段となる。以下でこれらの論文の特徴について紹介する。

3 水熱プロセス

3−1 水熱酸浸出

 現在、リチウムイオン電池(LIB)の正極材のリサイクルプロセスとして主に、乾式精錬、湿式精錬、そして直接再生法の3つの技術が存在する。いずれのプロセスでも、酸浸出は有価金属元素を分離/回収するために欠かせない技術である。従来は、硫酸と過酸化水素を用いた還元剤併用や大気圧酸浸出が用いられていた。しかし、これらの手法は使用する酸や還元剤の濃度が高く、作業環境において有害ガスが発生する可能性があるだけでなく、処理時間が長いという課題がある。

 これらに対し、使用する薬品の種類と濃度を減らし、作業環境で発生するガスによる曝露(ばくろ)を抑え処理時間を短くすることで、環境負荷を減らす処理効率の高いプロセスがある。そのプロセスは100℃を超える液体の水(水熱条件)を反応場/分離場とする水熱酸浸出で、著者の研究グループで研究/開発を続けている(図1)[参考文献3〜17]。筆者の研究グループ以外にも、水熱酸浸出という名称を用いた検討がなされている[参考文献21〜26]。

 酸浸出で重要なのは、Liの浸出、CoやNiなどの還元、反応の促進、金属イオンの溶解度の増大といった各条件を整えることである。酸性物質と還元剤を併用するとともに、温度を最適化することで反応速度と溶解平衡を適切に調節することが求められる。

 大気圧プロセスに関しては、100℃以下の条件でさまざまな酸や還元剤を用いた方法が検討されている。将来的にはリサイクルがなされる地域での入手容易性、経済合理性、環境適合性などの観点で、そうした添加剤は選定されることになると考えるため、さまざまな添加剤において、条件最適化がなされることは技術的/社会的に合理的である。

 水熱条件では、水および酸性物質自体の酸性(プロトン供与性)のみならず、酸化還元性も高まり、高温条件であるため反応速度も向上し、金属イオンの溶解度も増大することことから、本質的に酸浸出に適した反応場/分離場といえる。対象金属イオンの反応性、溶解性に鑑み、それらの選択性も含め、著者の研究室で検討を進めている。そして、各種有機酸およびアミノ酸に加え、塩酸などのミネラル酸やアンモニア添加剤の有用性を確認している。

3−2 直接再生法における水熱Li再充填法(Hydrothermal Relithiation)

 正極材活物質(中核となるリチウムイオン含有酸化物)は、充放電の頻度増大に伴い、以下の理由により劣化度合いが高まる[参考文献43]。

  • (1)遷移金属の電解液への溶出
  • (2)正極材活物質としてのリチウムイオン受容酸化物そのものの構造や粒子構造の崩壊
  • (3)酸化物の結晶格子からの酸素放出
  • (4)充放電キャリアであるリチウムイオンの負極材への固着による損失

 使用済み/廃棄リチウムイオン電池を解体、分別、粉砕、分離などの物理的選別工程を駆使し、正極材活物質をそのまま再利用する「直接再生法」において、この正極材活物質の劣化は重要な問題であり、特にリチウムイオンの損失は正極材活物質再生において大きな課題となる。これを解決する方法として、リチウム再充填法の検討が精力的になされている。

図3 直接再生法におけるリチウム再充填法
図3 直接再生法におけるリチウム再充填法[クリックで拡大]

 総説によれば[参考文献43]、リチウム再充填法は、固相再生法や電気化学的再生法などに比べ、リチウム充填率を損なうことなく、使用するエネルギーも低減できる可能性はある。さらに、プロセスのスケールアップや廃水処理によるコスト増などについて、さらなる検討が必要であるとの見解もあるが、多くの報告において水熱リチウムイオン再充填法の優位性が確かめられている。

3−3 水熱プロセスのLIB関連研究[参考文献44〜45]

 水熱LIB関連技術に関連した、腐食[参考文献44]やMn材料に関するCo吸着挙動[参考文献45]に関する報告もある。著者の研究室での研究や「3−1」で述べた報告など、水熱条件での酸浸出が積極的に実施されるようになった。

 このプロセスを実用化するに際し、装置を製作する際に選定する金属配管類への、水熱酸浸出の影響を知る必要がある。これまで、通常の水溶液条件における酸処理プロセスの材料選定や、超臨界発電などのタービン翼の素材の選定などに対して、当該プロセス条件が配管/反応器壁に与える影響に関して調査されてきたが、水熱条件の酸処理プロセスにおける検討事例はそれほど多くない。

 参考文献44において、水熱酸浸出として、LIBばかりでなく、金属鉱山における鉱物からの対象元素の水熱酸浸出(高圧酸浸出:High Pressure Acid Leacing, HPALとも呼称される)に対する材料評価がなされている。

 また、参考文献45では、マンガン系リチウムイオン電池(LMO)の再利用として、リチウムを回収した後に生成するマンガン酸化物を、排水中に含まれるCoイオンの吸着回収に用いようとする研究がなされている。その研究では水熱条件により生成するマンガン酸化物が特徴的な構造を有すると報告されている。

 また、リサイクルには、水平リサイクルの他、カスケードリサイクル、アップサイクルなど、いくつか方法論が提示されている。参考文献45の報告は、カスケードもしくはアップサイクルの例だと認識するが、こうした試みも、使用済み/廃棄LIBが再生される地域の事情(量的、環境受容的、経済合理的など)により技術として有意な可能性もあるため、必要であると考える。

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