医療にもAIの裾野を広げるインド、欧州各国との連携にはグローバルサウスも絡む:海外医療技術トレンド(129)(3/3 ページ)
前回は、2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピック大会を巡る最新テクノロジー動向を紹介した。今回は、AIを巡るインドと欧州各国/地域の連携について取り上げる。
AIを起点にインドとの連携強化を図るフィンランド
北欧/バルト諸国でもインドとのAI連携に向けた動きが活発化している。本連載第105回で触れたフィンランドでは、同国首相のペッテリ・オルポ氏が2026年2月18日、インド首相のモディ氏とニューデリーで会談している。この個別会談では、クリーントランジション(清潔なエネルギーへの移行)、新興技術、デジタルソリューション、教育といった分野において、両国間に多大な実務的協力の機会と潜在的な可能性があることを確認している(関連情報)。オルポ首相は、フィンランドとインドの良好な2国間関係の進展を戦略的パートナーシップへと継続させ、2国間の貿易額を速やかに倍増させることを目指すと述べている。
また、在ニューデリー・フィンランド大使館とフィンランド・イノベーション基金(SITRA)、フィンランド運輸通信省は同じ2月18日、AIインパクト・サミットのサイドイベントとして、「レジリエントな未来に向けたソブリンディープテックの構築」と題するセッションを開催し、AI、宇宙、量子コンピューティング、次世代デジタルネットワークなどの先端技術分野において、フィンランドとインドの戦略的パートナーシップが拡大していることを強調している(図2参照、関連情報)。
図2 フィンランドとインドの連携によるソブリンディープテック構築促進に向けたサイドイベント[クリックで拡大] 出所:Finnish Innovation Fund(Sitra)「Building Sovereign Deep Tech for a Resilient Future: Solutions from Finland and India」(2026年2月18日)
さらに2026年3月4〜7日に、フィンランド 大統領のアレクサンダー・ストゥブ氏が、モディ氏の招待を受け、インドを国賓として訪問した(関連情報)。両国は、「デジタル化とサステナビリティに関する戦略的パートナーシップ」を発表している(関連情報)。加えて、ストゥブ氏はムンバイを訪問し、マハラシュトラ州知事および州首相と会談した他、インドのビジネスリーダーらと交流し、「インド・フィンランド・ビジネスイベント」に出席し、ムンバイ大学にて学生向けに講演を行っている。
AIから量子技術への拡大に向けてインドと連携する北欧/バルト諸国
本連載第108回で触れたエストニアも、同国大統領のアラル・カリス氏が、フィンランドと同じ2026年2月18日、ニューデリーでモディ氏と会談している(関連情報)。このハイレベルの2国間会談を通じて、AIガバナンス、デジタル公共インフラ、クリーンエネルギー技術イノベーション、スマートエネルギー管理、教育テクノロジー、人材の流動性といった分野での協力拡大について議論されたとしている。また、カリス氏は、エストニアの成長するテック・エコシステムにおけるインド人専門家の貢献を高く評価し、両国間の人的交流と国境を越えたイノベーションパートナーシップの強化を強調している。
エストニアが打ち出す取り組みの中心にあるのが、「Eesti.ai」と呼ばれる政府全体を対象としたAI戦略である(関連情報)。この戦略は、各省庁や経済分野全体にAIを組み込み、2035年までに国家の生産性を2倍にすることを目指している。行政、医療、教育、ビジネスサービスといった分野にAIを統合することにより、エストニアはAI主導のガバナンスがいかに効率性を高め、官僚主義を削減し、国民へのサービス提供を改善できるかを実証しており、このようなAIによる経済変革のモデルは、大規模なデジタル変革戦略を追求する他国にとっても貴重な示唆を与えるものだとしている。
その他の北欧/バルト諸国からは、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ラトビア、リトアニアもAIインパクト・サミットに参加している(関連情報)。これに先立ち2025年10月22日、北欧閣僚会議傘下のノルディックイノベーションは、北欧およびバルト地域におけるAIの活用促進を目的として、「ニューノルディックスAI(New Nordics AI)」を発足させたことを発表している(関連情報)。新たな北欧・バルトAIセンターは、政府、団体組織、企業間の協力を強化し、地域におけるAIの導入を促進することにより、競争力の向上を目指している。この新センターの設立申請に関しては、AIスウェーデン、AIフィンランド、デジタルドグメ(デンマーク)、IKTノルゲ(ノルウェー)、アルマンナロームル(アイスランド)が共同で支援している。その後2025年12月25日には、エストニア政府が、AIギガファクトリーのイニシアチブへの参加を表明している(関連情報)。
なお、リトアニアは、2025年10月10日、EU傘下の欧州HPC共同事業体(関連情報)により、AIファクトリー設置国の1つとして選定された。そして、国家レベルのAIファクトリーである「LitAI」の構築に向けて動き出した(関連情報)。また、ラトビアは、2025年10月13日、欧州HPC共同事業体により、AIファクトリーアンテナの1つとして選定された(関連情報)。ラトビアのAIファクトリーアンテナ(AIFA-LAT)は、研究、実験、そして経済の主要分野/学術界/公共部門におけるAIの導入を支援する、堅牢で、モジュール式かつスケーラブルなシステムを構築することにより、ラトビアのAIイノベーション基盤を強化することを目的としている。将来的にはフィンランドのAIファクトリーと連携する予定である。
本連載第123回で紹介したように、北欧/バルト諸国は、医療/ウェルビーイング分野において、AIと量子技術の融合による新産業創出をめざしている。
他方、インド政府は、2023年4月19日、50〜1000量子ビット級の量子コンピュータ開発、量子通信、量子センシング/量子計測の研究開発、量子人材育成と研究エコシステムの構築を主要目標とする「国家量子ミッション」を閣議決定している(関連情報)。さらに2025年4月14日には、国内の量子ハードウェア製造能力の強化と、国際的な研究機関・企業との連携を柱とする「国際技術エンゲージメント戦略(ITES-Q)」 を発表している(関連情報)。
EU全域レベルでは、2023年2月8日にスタートした「EU・インド貿易技術評議会(TTC)」(関連情報)が、今回のAIインパクト・サミットに際しても、積極的な連携強化活動を行っている(関連情報)。その中で、北欧/バルト諸国は、グローバルサウスのゲートウェイとなるインドとの協力関係を、AIから量子コンピュータまで拡大できるのか、今後の動向が注目される。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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