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健康な社会づくりを目指すミラノ・コルティナ2026とイタリアのAI/サイバー政策海外医療技術トレンド(128)(1/3 ページ)

本連載第113回で、イタリアのeヘルスとAI法対応を取り上げたが、今回は健康な社会づくりをレガシーの中心に据える「2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピック競技大会」を巡る最新テクノロジー動向を紹介する。

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 本連載第113回で、イタリアのeヘルスとAI(人工知能)法対応を取り上げたが、今回は「2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピック競技大会」(以下、ミラノ・コルティナ2026)を巡る最新テクノロジー動向を紹介する。

⇒連載「海外医療技術トレンド」バックナンバー

分散環境下で健康な社会づくりを目指すミラノ・コルティナ2026

 本連載第100回で、「2024年パリ夏季オリンピック・パラリンピック競技大会」におけるAI戦略動向を取り上げた。そして2026年2月6〜22日と3月6〜15日の期間、イタリアでは、ミラノ・コルティナ2026が開催されている。今回の大会は、イタリアの4つのクラスター(ミラノ、コルティナ、ヴァルテッリーナ、ヴァル・ディ・フィエンメ)に、合計25の競技会場が分散している点が特徴となっている。

 2025年12月19日、国際オリンピック委員会(IOC)は、「ミラノ・コルティナ2026は健康な社会(Healthy Society)づくりをレガシーの中心に据える」という記事を発表した(関連情報)。

 IOCは、ミラノ・コルティナ2026が、人々とウェルビーイングをオリンピックレガシーの中心に据え、全ての人に向けて「ムーブメント」「インクルージョン」「健康的なライフスタイル」を促進するとしている。学校や職場からアルプスの町々に至るまで、70を超えるプロジェクトが実施され、身体活動のレベル向上と、スポーツを通じたソーシャルインクルージョンの推進が進められている。そして、冬季オリンピックは、スポーツ、医療、公共空間への投資を加速させ、2026年以降もイタリアの社会基盤にウェルビーイングを根付かせることに貢献すると強調している。

 IOCは、身体活動の促進、スポーツへのアクセス拡大、そして人々がよりアクティブになるよう鼓舞することを、オリンピックのレガシーと持続可能性に関する長期的ビジョンの中心に据えている。ミラノ・コルティナ2026はこのビジョンを体現しており、よりアクティブで、よりつながり、日々の生活により主体的に関わるコミュニティーを後世に残すことを目指すことを表明している。

 国家レベルでは、2023年7月、イタリア議会が全会一致で憲法改正を可決し、あらゆる形態のスポーツが持つ教育的、社会的、心理/身体的なウェルビーイングの価値を認める一文を新たに盛り込んだ。これにより、スポーツが教育、ソーシャルインクルージョン、ウェルビーイングを支える役割が憲法上も明確になっている。

 このイタリア憲法上のコミットメントの一環として、ミラノ・コルティナ2026が取り組んでいるのが、「Go for 30」プログラムである(関連情報)。これは、「1日30分の身体活動を日常に取り入れる」ことを企業およびその従業員に促す施策であり、日常的な運動習慣の定着、職場のウェルビーイング向上、健康的で持続可能な企業文化の醸成を目的としている。「Go for 30」は、すでに43万人以上の従業員に広がっており、参加企業は、オフィスの再設計や日々のルーティンの導入を進め、従業員がより動ける環境づくりと、より健康的で持続可能な職場文化の醸成に取り組んでいる。「Go for 30」参加企業からの初期報告では、欠勤率の低下、生産性の向上、従業員の士気・ウェルビーイングの改善といった成果が確認されている。日本では、人的資本経営、健康経営といった概念が企業の間で広がりつつあるが、同様の流れを、ミラノ・コルティナ2026のレガシーとして根付かせることができるのか注目される。

分散環境下の2026年ミラノ・コルティナ冬季大会を支えるAIネイティブ技術

 2024年パリ夏季大会では、「オリンピックAIアジェンダ」(関連情報)に基づくさまざまな実証実験が展開されたが、それから2年後のミラノ・コルティナ2026は、AIネイティブ技術を放送/解析/映像表現に本格導入する初の冬季五輪となった。

 例えば、中国のアリババクラウドは、IOC傘下のオリンピック放送機構(OBS)による視聴体験を向上させる新技術の導入に協力している(関連情報)。「360度リプレイ」では、流れるようなカメラワークとストロボ効果を用い、アリババのAIアルゴリズムが氷上/雪上の選手を背景から切り離し、最短20秒でリプレイ映像を生成する。OBSは、アイスホッケー、フリースキー、フィギュアスケートなど17の競技/種目で360度リプレイを使用し、視聴者が技の難易度や採点理由を理解しやすいようにするとしている。また、カーリングでは、AIを活用した新しいストーン追跡システムにより、ストーンの軌道/速度/回転をリアルタイムで追跡し、軌道グラフィックやライブデータとして表示する。さらに、2021年の東京夏季大会で導入され、その後オプションから主要なリモート配信手段へと拡大した 「Live Cloudプラットフォーム」の利用も拡大する。ミラノ・コルティナ2026では、このプラットフォームを通じて 428のライブ映像フィード(うち26本は超高精細(UHD)ストリーム)を39の放送局へ配信するとしている。

 他方、韓国のサムスン電子は、モバイル技術の革新とGalaxy AIを大会期間中のさまざまな体験に統合することにより、ミラノ・コルティナ2026をこれまで以上に“つながった”大会にするための取り組みを発表している(関連情報)。地理的な広がりや距離、分散した複数の開催地といった特徴を持つ今回の大会において、サムスン電子はこうした“距離”を埋める役割を担い、アスリート、ファン、そしてより広いオリンピックコミュニティーに対して、Galaxy AIに代表される技術を大会運営のあらゆる場面に組み込むことにより、ミラノ・コルティナ2026の瞬間をより身近でつながりのあるものにしていくとしている。

 サムスンは、具体的なサービスの特徴として、以下のような点を挙げている。

  • 開会式のライブ放送と連携したダイナミックな視点の提供
  • ボランティアによる円滑な現場コミュニケーションの実現
  • 公正な競技運営のための判定/競技モニタリングの支援
  • Galaxy充電ステーションでファンのデバイスを常に稼働状態に
  • 専用ハブでアスリート、メディア、パートナーをつなぐストーリーテリング

 サムスン電子は、コロナ禍の2021年に開催された東京夏季大会時にも、原宿にバーチャル技術を活用したサムスン・ギャラクシー東京2020メディアセンターを運営し、メタバースプラットホーム上に五輪コンテンツを楽しめるサムスン・ギャラクシーハウスを開設するなど、世界中のアスリートとファンをつなげるキャンペーンを展開している(関連情報)。その経験とノウハウが、2022年北京冬季大会、2024年パリ夏季大会を経て、ミラノ・コルティナ2026にも生かされている。

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