「2027年にヒト3割、ロボット7割」モノづくり企業花王が描くスマート工場:ファクトリーイノベーションWeek2026(2/2 ページ)
「ファクトリーイノベーションWeeK2026」の最終日に、花王が「花王のスマートファクトリー実現に向けた現状と課題」と題した特別講演を実施。自動化から自律化へのカギとなる統合制御などについて語った。
少量多品種生産の突破口となった「ダイナミックセル」
まず、花王は2021年にグローバルで1000人の省人化目標を設定。ただし、その前提条件は簡単ではない。「花王ではEVA(経済的付加価値)を重視し、経済合理性に見合った投資しか認めない厳格なルールを定めている。単に“人の代わりにロボットを入れる”ことはできない」(小林氏)
その上で、AMR(自律型走行搬送ロボット)を使った充填(じゅうてん)機への自動資材供給、ランダム対応の段ボール製函機、AGF(自動フォークリフト)によるトラックへの無人積載などロボット/自動化技術を導入。投資回収を成立させながら、省人化を積み上げてきた点は注目に値する。2025年時点で約800人の省人化を実現しており、2027年までの達成に道筋をつけている。
花王の製造革新の象徴となっているのが、2024年に化粧品のグローバル生産拠点である小田原工場(神奈川県小田原市)で稼働させた「ダイナミックセル生産システム」だ。1ラインで複数品種を短時間で切り替えて生産する仕組みで、フローティングリニア搬送と3DのAIビジョンカメラが中核をなす。
「1ラインで複数の製品を同時に作ることにチャレンジしたかった。生産速度の異なるものが同じラインを流れるには“追い越し”が必要になるが、従来のベルトコンベヤーでは不可能だった。しかし、フローティングリニア搬送と出会い“これでできる”と確信した」(小林氏)
磁気浮遊型のシャトルを自在に動かすことで、生産速度の異なる製品を同時に製造することを実現した。また、「国内メーカーのカメラでは実現できず、海外製を採用した」(小林氏)という3DのAIビジョンカメラによって透明容器でも高精度に認識し、ピック&プレースを可能にした。こうした革新的な技術によって、従来は1日当たり2品種生産にとどまっていたのが、現在は24時間体制で18品種生産できるようになった。
「以前は10人必要だった工程を今は3人で回している。将来的には監視オペレーター1人体制も視野に入れており、最も自動化しにくい化粧品分野で可能性を示せたと自負している」(小林氏)
化粧品の包装工程にはカワダロボティクス製の梱包箱組み立て/箱詰めシステム「Cobako」を導入した。小林氏は「複数台を導入し、24時間無人運転を目指している。充填をダイナミックセルで、包装をロボットで無人化できれば、数年以内に数百あるいは1000近い型替えの自動化も実現できるのではないか」と見る。
また、ダイナミックセル生産システムは意外な副産物をもたらした。化粧品のファンデーション表面に自由な加飾を施す新技術にも発展したのだ。
「化粧品ブランドSUQQUの20周年記念モデルは、この技術を使って加飾した。従来は金型を作らないと加飾できず、1000個程しか生産しない場合は非常に収支が悪かった。エンジニア側からお客さまに新たな価値をお届けできた、これまでにないケースだ」(小林氏)
自動化から“自律化”へ、花王のフィジカルAI統合構想
ダイナミックセルにより少量多品種の壁を乗り越えた花王が次に挑むのは、生産現場が自ら判断し動く“自律化”である。
「自動化から自律化へ。サイバー(データ)とフィジカル(製造現場)を一体化する“統合制御”によって、能率的なマニュファクチュアリングチェーンを実現させたい」(小林氏)
この構想は一見すると他社と大きな違いはない。だが、小林氏が強調するのは「花王はモノづくりの会社」という原点だ。
「データやAIを活用すること自体が目的ではなく、それをどうやって“モノ”に変換するかが最も重要だ。ロボットだけが高度化しても、ライン全体を最適化できなければ生産性は上がらない」(小林氏)
ロボットの高度化だけでは、型替えやパラメータ調整といった“最後の物理作業”を人が担うことになり、生産性は頭打ちになる。花王はこうしたサイバーとフィジカルの大きな溝を「デジタルファブリケーションギャップ」と呼び、AIなどを活用した統合制御によるギャップの解消こそが真のスマートファクトリー実現のカギと位置付ける。
さまざまな課題も残されている。その1つが、ロボット作業の限界だ。
「入浴剤のバブは、複数の種類を1つにまとめて梱包したアソート品が好調だが、この梱包は人作業で1分間に90箱を作っている。しかし、まだロボットはその半分程度しか作業できない。複雑な包装工程をどう自動化していくかも課題となっている」(小林氏)
他にも、社内のエンジニアだけでは対応できない高度な制御設計、既存設備とロボットを導入するスペースのリアロケーションなど課題はあるが、花王は「2027年までに“人3割、ロボット7割”の共存工場を実現し、2030年には完全自律型のスマートファクトリーを実現する」(小林氏)というロードマップを描いている。
スマートファクトリーは、従来の工場という概念を根底から変える可能性を秘めた試みだ。その道のりは平たんではないが、花王の挑戦と着実な歩みは、多くの製造業にとってモデルとなるはずだ。
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