「ロボットが主役になる必要はない」ヒト型ロボット国内パイオニアの哲学と挑戦:ファクトリーイノベーションWeek2026(2/2 ページ)
「ファクトリーイノベーションWeeK2026」の最終日に、カワダロボティクス 会長の川田忠裕氏が特別講演に登壇。同社が進める人と一緒に働くヒト型ロボット(ヒューマノイド)の開発と今後の展望について語った。
「ロボットに何をさせるのか」、歩かない協働ロボット「NEXTAGE」の誕生
2001年には経済産業省が主導する人間協調・共存型ロボットシステム開発プロジェクト(HRP)にも参画した。
「まだ当時は2体しかロボットの実績がなかったが、ホンダがプロジェクトから抜けるということで、当社が入れてもらうことになった」(川田氏)
2003年に二足歩行や人との協働作業を実現したヒト型ロボット「HRP-2」を開発。これを皮切りに、2005年日本国際博覧会「愛・地球博」での歩くティラノサウルス、産業技術総合研究所と開発したダンスをするヒト型ロボットなどを次々に発表した。技術的には当時の世界トップレベルの成果だったが、現実も突き付けられたという。
「毎回要求や仕様が異なり、エンジニアにとっては刺激的だが、会社としては商売にならない。さらに、“ロボットができた”の次に、“ロボットに何をさせるのか”という視点が欠けていた」(川田氏)
この気付きが大きな転換点になった。そこで川田氏が模索したのは、ヒト型ロボットをモノづくり現場の道具として活用する道だった。焦点を当てたのは、日本が直面する人手不足であり、目指したのは人の代わりではなく、人と一緒に働く存在だった。こうして生まれたのが、双腕の協働ロボット「NEXTAGE」だ。「歩く必要はない。必要なのは人の隣に立ち、同じ空間で安全に働くことだ」(川田氏)
人が横に立ってもロボットの肘が当たらない。休んだ作業者の代わりに、別の工程へ持っていけるロボット。「あくまで人が主役で、ロボットはそれを助ける存在」(川田氏)という哲学の下に開発されたNEXTAGEは2009年の発表以降、累計1000体以上が導入され、今も数多くの現場で稼働している。地方の工場では、NEXTAGEに名前を付けて一緒に働いているケースもある。「“真之介”という名前をつけてもらったロボットもあるそうだ」(川田氏)。
ロボットが“設備”ではなく、“仲間”として扱われる。それは現場に溶け込む設計を徹底してきた結果でもある。こうした手応えを受けて、2013年に川田工業の子会社としてカワダロボティクスを設立。本格的なロボットビジネスに乗り出した。
工場から実社会へと広がる「人が主役」の協働ロボット哲学
川田氏がもう1つ、強い問題意識を持っているテーマがある。「日本には、病気や介護などで家から出られない人が約1000万人もいる」(川田氏)。
病気、ケガ、障害、家族の介護など理由はさまざまだが、能力があっても“現場に行くことができない”だけで、働く機会を失っている人たちだ。「その状況をロボットで変えることができないか」(川田氏)。
分身ロボットカフェで活躍する「テレバリスタOriHime×NEXTAGE」は、その答えの1つだ。NEXTAGEとオリィ研究所の分身ロボット「OriHime」を組み合わせたもので、ALS患者のバリスタが遠隔地から接客だけでなく手先を使った作業をこなし、いれたてのコーヒーを提供している。「あくまで人が主役で、ロボットはそれを助ける存在」という哲学は、工場だけでなく、店舗や社会へと広がっている。
近年、世界的なヒューマノイド開発競争は激しさを増している。しかし、川田氏はあくまで冷静だ。
「2026年1月に米国・ラスベガスで開催された『CES 2026』にわれわれも出展したが、目立っていたのは中国や米国のロボットだった。今はAIも搭載されており、走ったり、格闘したりと技術的にレベルが高いが、われわれが10年以上前に通った道と大して変わらないのではないか。重要なのは、ロボットに何をさせるのか、人の可能性がどう広がるかではないだろうか」(川田氏)
とはいえ、「当社は20数年前からロボット開発をやっているのに、ちょっと悔しい気持ちもある」(川田氏)。そこで「HRP-2」をリニューアルする形で、新たなヒト型ロボットの研究開発を再スタートさせた。
東大の松尾・岩澤研究室と共同でディープラーニング(深層学習)を駆使したロボットの生成AI基盤モデル構築や、慶應義塾大学とのハプティクス(触感技術)の研究開発にも乗り出している。それらを川田グループの鉄骨生産工場など特殊な製造現場に導入するなど、実環境での運用にも力を入れている。
しかし、技術の派手さより、現場のリアルを追求する姿勢に変わりはない。「ロボットが主役になる必要ない。人をエンパワーできれば、それでいい」(川田氏)。
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