finalはなぜASMR専用イヤホンを展開するのか、目指す“音を感じる世界”の拡張:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(39)(4/4 ページ)
ハイエンドオーディオを得意としながら、ASMR専用のイヤホンを開発/販売しているのが、日本のオーディオメーカーであるfinalだ。なぜfinalはASMRの世界に深く入り込んでいったのだろうか。その舞台裏を小寺信良氏が伝える。
ASMRの可能性
小寺 ASMRの市場規模はどのぐらいなんでしょうか。
森氏 弊社も実はマーケティングが得意というわけじゃないので、本当は「ASMRの市場規模がこれこれだからASMRに向けに製品を出しました」みたいなことが言えるとたぶんかっこいいんでしょうけど(一同笑)。
どちらかというとエンジニアの興味によって動いている会社なので、今回は秋山の情熱によってこの製品が生まれています。反応としてのASMRというよりも、コンテンツ文化としてのASMRという広い意味で捉えると、かなり広がっているんじゃないかなという感覚はあります。
総務省の調査では2023年のネットオリジナル音声コンテンツの市場規模は約312億円とあるんですが、これは2020年から約4倍に拡大しています。ASMRだけのデータではないのですが、そういうものも参考にはさせていただいています。
小寺 ASMRにハマる要素として、人それぞれに「トリガー」があると思うんですが、なかなかトリガーが見つけられないタイプの人もいるわけです。このZE3000 for ASMRは、トリガーがより見つけやすいと言えるんでしょうか。
秋山氏 それを目指して開発しました。一般的によく言われてるささやき声や耳かき音とかそういうものを聞いた時に、よりティングルが起きやすいというのが、ZE3000 for ASMRのポイントじゃないかなと思います。
小寺 今クラウドファンディングされているところですが、反応はいかがですか。
森氏 非常に好調で、今の時点で1億1200万円ぐらいで、7000人強の方に支援していただいています。毎日100人ずつぐらい増えてます。プロジェクトを延長するお知らせをしようと思っておりまして、1カ月ほど伸ばす予定です(2026年2月15日まで延長)。
大体1人1個買っていらっしゃるので、まだプロジェクトの途中ですけどだいたい7000個ぐらいはオーダーをいただいています。どんどん出荷も行っておりますので、すでに4000個ぐらいはお客さまに届いていると思います。
小寺 買われる方は、どういう方々なんでしょうか。
森氏 年齢はかなり若い方からご支援をいただいています。18〜20代前半が今1番多いところですね。次いで20代後半〜30代前半、30代前半〜40代前半というところです。ここまでで大体7、8割ぐらいの数字になっています。これは私たちのfinal製品の購買層から考えても、かなり若いと言えます。
また男女比も男性8割、女性2割となっています。これも私たちの製品から考えると女性割合が多いと言えます。
小寺 若いユーザーがほとんどということですが、耳の特性として若い子の方がティングルが感じやすいということですか?
秋山氏 研究ではその差はまだ見られていないです。ただ、これは単純に認知度の差かなと思います。先ほどの購買層の年齢分布というのは、実はこのそのまま、ASMRの認知度の差として現れています。10代で70%、20代で50%、30代で20%という比率で、年齢が上がるに従って「全然知らない」という風になっていくので。
耳の特性としては、1つの研究テーマとして今後研究されていくと思うんですが、今の段階では年齢とは直接は関係ないかなと思います。
小寺 ASMRには海外コンテンツも多いわけですが、ASMRを好む傾向は世界的な潮流なんでしょうか。
森氏 例えば、日本だとVTuberさんといったところから広がっている側面も大きいんですが、アメリカはどちらかというとヒーリング的な、リラックスの側面が伸びているように見えます。ASMR専用イヤホンというのは、まだほとんど広がっていない状況なので、ここに関しては今後勝負していきたいという風に考えています。
正直ASMRの世界がこれほど深いとは、想像していなかった。一般的な音楽を心地よく聴くためのイヤホンとはまた全然違った方向性で、専用品が作られているというのも新しい発見であった。
筆者にも「ZE3000 for ASMR」をサンプルでお送りいただいているが、なるほど聴いてみると低音が深く沈み込む一方、ゴリッとした解像感は感じない。また高域特性は滑らかで、カドが立たない音質である。そもそもASMRコンテンツは、マイクを直接触ってゴソゴソさせるといった、従来の音響収録の常識ではあり得ない使い方をしており、そうした音響特性に合わせた表現力を備えたということであろう。
ASMRの普及により、音の世界はもう一段深いところに沈んだと言える。聴くというより感じるコンテンツとして、今も静かに広がり続けている。
⇒連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」のバックナンバーはこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
ライター/コラムニスト。1963年宮崎市出身。
18年間テレビ番組編集者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで幅広い執筆・評論活動を行う。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。2015年から4年間、文化庁文化審議会専門委員を務めたのち、2019年に家族で宮崎へ移住。近著に改訂新版「学校で知っておきたい著作権」がある。
Twitter(現X)アカウントは@Nob_Kodera
近著:改訂新版「学校で知っておきたい著作権」(汐文社)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
“サウナー”御用達の腕時計「サ時計」はどうやって生まれたのか
2024年12月にクラウドファンディングで約9分で完売する人気を得たサウナー専用腕時計「サ時計」。その開発の発想や背景には何があったのか。舞台裏を小寺信良氏が伝える。
カシオがなぜ? ギタリスト向け「音のレシピ」アプリをリリースしたワケ
2025年7月末、カシオ計算機はギタリストの音作りを支援するスマートフォンアプリ「TONEBOOK」をリリースした。ギターやエフェクターを作っているわけではないカシオがなぜ「ギターの音作り」に取り組むのか。その舞台裏を小寺信良氏が伝える。
カシオが作ったモフモフAIロボット 生き物らしい「可愛さ」をどう設計したか
カシオ計算機が2024年11月、AIペットロボット「Moflin」を発売した。ペットロボット市場はベンチャーの製品が多い印象だが、なぜ大手メーカーであるカシオ計算機が参入したのか、同社が蓄積してきたメカトロニクス技術をMoflinにどう生かしたか、お話を伺った。
人に合わせる「人間工学電卓」、カシオはレガシーな製品をどう進化させたのか
カシオ計算機が「人間工学電卓」という電卓を新たに開発した。操作面に3度の傾斜を付けており、キーも階段状に配置がなされている。PC用キーボードでは人間工学的視点を取り入れた製品は少なくないが、電卓に適用するのは盲点だった。開発の背景を担当者に伺った。
プロジェクター市場半減の衝撃、カシオの生きる道は“組み込み”へ
コロナ禍もあってプロジェクター市場が急減している中、カシオ計算機は独自のプロジェクター技術を生かすべく、「プロジェクションAR」向けに用いられる組み込みプロジェクションモジュールを新規事業として立ち上げた。現在、最も強い引き合いがあるのが、スマートファクトリー向けの作業ガイドだという。
メイカーズから始まるイノベーション、ポイントは「やるかやらないか」
メイカーズの祭典である「Maker Faire Tokyo 2018」(2018年8月4〜5日、東京ビッグサイト)では、パソナキャリアの企画によるセミナー「メイカーズから始まるイノベーション」が開催された。
“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”JINS MEMEはなぜ生まれたのか
“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”として大きな注目を集めたジェイアイエヌの「JINS MEME」。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。
