人に合わせる「人間工学電卓」、カシオはレガシーな製品をどう進化させたのか:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(24)(1/4 ページ)
カシオ計算機が「人間工学電卓」という電卓を新たに開発した。操作面に3度の傾斜を付けており、キーも階段状に配置がなされている。PC用キーボードでは人間工学的視点を取り入れた製品は少なくないが、電卓に適用するのは盲点だった。開発の背景を担当者に伺った。
既に多くの人が使うことがなくなったかもしれない、「電卓」。正式には、「電子式卓上計算機」という。
世界最古の計算機は歯車を使った機械式で、発明者は「パスカルの定理」で知られるブレーズ・パスカルであったとされている。1643年のことである。
イノベーションが起こったのは、1954年だった。歯車を一切持たない純電気式計算機をカシオ計算機が試作、1957年に商品化した。ただサイズが机1つ分あり、卓上というより、卓そのものが計算機といった趣だった。やがて各メーカーが計算機事業に乗り出す。1960年代初頭からおよそ10年の間に、真空管、トランジスタ、IC、LSIと集積化が進んだ。
いまでこそ100円ショップでも買える電卓だが、普及の礎となったのが、1972年発売の「カシオミニ」である。「答え一発! カシオミニ」のキャッチフレーズでテレビ広告を大量投下したことで、多くの人がカシオの名前を知ることになった。片手で持てるサイズで、当時の平均価格の1/3以下という1万2800円で発売すると、電卓は「オフィス用品」から「個人で持つもの」へと変化した。
既にやれることはやり尽くした感がある電卓に、カシオが何度目かの新しいページを開こうとしている。「人間工学電卓」。自然な姿勢で打ちやすさを追求した、新しいタイプの電卓だ。
ジャストタイプと呼ばれる中型の「JE-12D-WE/BK」が1万450円、デスクタイプの「DE-12D-WE」が1万1000円。最大のポイントは、右手使用時に合わせて、操作面に3度の傾斜を付けた点だ。キー自体も階段状になっている。
PC用キーボードでは、エルゴノミクスタイプなど人間工学的視点を取り入れた製品は多いが、電卓は確かに盲点であった。そこに至った背景を、商品企画を担当したカシオ計算機 教育BU 商品戦略部 ハード戦略室の木村加奈子さんに伺った。
今の電卓の「ポジション」とは
―― 私も電卓を使わなくなって久しいんで、今回の取材に合わせて慌てて量販店で電卓コーナーを見てきたりしてきました。名も知らぬメーカーばかりかと思ったら、今でもしっかり日本メーカーが作っているんですね。いま電卓のシェアって、どんな感じになっているんでしょうか。
木村加奈子氏(以下、木村) 今はたくさんのメーカーがあって、それこそ100円ショップなどで売られているものまでは追い切れていないんですけど、大手メーカーの中ではカシオの国内シェアはナンバーワンです。
―― そうですよね。なにせ社名が「カシオ計算機株式会社」ですもんね。今でも計算機を使われる方って、どういう業種になるんでしょうか。
木村 経理職の方であったり、会計経理といわれる方ですね。あとは営業で現場で値段を出したりとか、総務人事の金額に関わる部分に携わる方。またKPI(重要業績評価指標)というか、どれぐらいPV(ページビュー)数があるか見るみたいな、仕事で数字を使う人から一定数の支持があるというところですね。
―― 電卓にはいろんなサイズがあるようなんですが、PCのキーボードみたいに一定の規格があるわけではない?
木村 歴史的なところで言うと、キーボード規格のピッチとかキーのサイズを踏襲しているようなモデルもあります。一方で軽薄短小じゃないですけど、オフィスで使う、手が小さい人が使うといった場合では、それだとちょっと大きすぎるっていう声は昔からありました。ですから、持ちやすさ重視で出したモデルや、ポケットに入るというニーズでいろんなバリエーションが出てきた、っていう経緯があります。
―― なるほど。昔からユーザーのニーズに合わせるというマインドがあった業界ということなんですね。電卓売り場でいろんな製品を見てみると、どうも一般的な四則演算の電卓よりも、関数電卓のほうが小型化の傾向が強いように思えるんですが、これもそういうことなんでしょうか。
木村 同じ部門で関数電卓も担当しているんですけれども、普通の電卓と関数電卓との違いって、バシバシ計算するか、ポチポチやるかという、使用頻度的なものもありますね。
関数電卓の場合、足し算をダーッと計算していくのではなくて、難しい計算をパッとやりたい、みたいに、だいぶ使用シーンが違います。そのために携帯性とか、使いやすさ、堅牢性といったところが、関数電卓のハードウェア的な特徴になります。
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