ソフトウェアデファインドはオートメーションに何をもたらすのか:製造業ソフトウェアデファインドの潮流(1)(3/3 ページ)
本連載では、ソフトウェアデファインドオートメーションおよびソフトウェアデファインドマニュファクチャリングのトレンド、方向性と実現に向けた要点について、多くの製造領域のリーダーやテクノロジープレイヤーとの議論を通じた筆者の考えを述べる。今回は、ソフトウェアデファインドの概要を説明しながら、モノづくりにおいてソフトウェアデファインドが必要とされる背景を考える。
従来の製造システムアーキテクチャの限界
OTシステム領域では、1990年代から国際規格ISA-95モデル(IEC/ISO 62264)が標準レファレンスアーキテクチャとして認識されてきた。
生産工程のセンシング、アクチュエーションからPLCによる制御、SCADAによる監視/管理、MES(生産実行システム)による製造オペレーション管理、ERPやPLMによるビジネスオペレーションと意思決定という階層を定義することで、それぞれで用いられる機器やソフトウェア、収集/管理されるデータの粒度やサイクル、それらをつなぐネットワークプロトコルがユーザー側とテクノロジープロバイダーの間で共通認識されてきた。
一般的にはレベル0〜2はOTシステム、レベル3〜4はITシステムとして認識されて構築が進み、日本の製造業はほぼ全ての企業において、OTシステムは工場側(生産技術、工場IT)、ITシステムは本社側(情報システム部門)が構築、運用をそれぞれ担う体制が定着していると言っても過言ではない。
先に述べたような高度化/複雑化するOTシステムでは、従来のISA-95モデルで定められるITとOTの境界を越えたデータのやりとりが必要になっている。
IT領域ではクラウドの進化に伴い、従来のような必要な機能群とデータベースが一体化したモノリシックなアーキテクチャから、統合化されたデータ基盤上でコンテナ化、マイクロサービス化された機能が実行され、データ処理するクラウドネイティブなアーキテクチャへの移行が進んでいる。
OT領域においても、各所で発生するデータや分析結果を現場で効果的、効率的に活用するために、従来のようなSCADAやMESなどのパッケージや目的別データベース単位でのデータマネジメントではなく、製造に関わる各所で生成されるデータを企業統合管理し、目的に応じた各アプリケーションサービスを必要に応じて利用するという、データセントリックなアーキテクチャが必要であるとの声は高まっている。
拠点/ライン単位でのOTシステム構築管理の限界
OTシステムは、工場やライン、ショップなど、設備とそれを管理する組織に属しており、それぞれのQCD要求に応じて最適と考える機器やベンダーを選び、システムを高度化(複雑化)してきた。機器:制御:開発/管理体制=1:1:1となってしまっている現在のモノリシックなOTシステム構成/体制といえる。
また、ISA-95階層という標準モデルはあるが、それを前提としたSCADAやMESのアプリケーション導入も基本的には工場単位で行われ、拠点間での標準化の取り組みは行われてこなかった。仮に、あるきっかけでPLC、SCADA、MESの標準構造を定義したとしても、企業内の生産拠点間でその標準化統制や運用管理を行う組織機能があることはまれで、現場での要求対応を優先して、要素間のデータ連携、機能追加などが独自に行われることが一般的である。
これは、要求や改善への柔軟な対応のための運用としてこれまでは妥当性のある体制、管理であったかもしれない。しかし、新製品投入サイクルの高速化やカスタマイゼーション、カーボンニュートラルへの対応、グローバル生産体制の拡大、加えてOTセキュリティなど従来にない課題に対して、欧米や新興国勢もデジタルをフル活用する方向に動いている。そこでは、ツール導入だけではなく、製造構造や体制も大きく変革しようとしてきている。
それに対して、日本の製造業の大半における製造デジタルの構造、体制は限界を迎えているのではないか。専門人材の不足/確保困難化、ベテランノウハウの喪失という現場の課題感に対して、現場のさらなる頑張りを期待するだけでは、もはや競争力は失われるばかりであろう。
こうした状況を打破し、OTシステムの柔軟性、拡張性、効率性を高めるために提唱されているコンセプトが、ソフトウェアデファインドオートメーションなのである。次回は、ソフトウェアデファインドオートメーションの実現に向けて必要なコンセプトや、メリットおよび課題について考える。
著者紹介
芳賀 圭吾
合同会社デロイト トーマツ パートナー
重工業、産業機械、建機/農機製造業を中心に、20年以上にわたって製造業向けコンサルティングに従事。事業戦略、ビジネスモデル策定から、設計開発・営業・サプライチェーン・サービスのオペレーション変革実行に至るまで幅広く支援している。
近年はデジタルを活用した事業構造変革に注力。スマートファクトリーイニシアチブのリードも務める。
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