既に輸出の3倍に、“海外で稼いで配当を送る”海外現地法人の現状:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(42)(2/2 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回は日本企業の海外事業について解説します。
海外事業の業種別売上高を見てみよう
日本企業の海外事業はどのような分野で拡大しているのか、業種別の変化についても確認してみましょう。図3をご覧いただけますか。
日本経済のピークとなった1997年と、最新の2023年で海外事業の売上高を見てみると、全体で128兆円から374兆円と約3倍になっています。
その内、製造業は52兆円から168兆円で3倍強、非製造業は76兆円から207兆円と3倍弱の成長となっています。製造業の中でも輸送機械は15兆円から90兆円で約5倍と大きく拡大し、2023年には製造業のうちの54%を占めています。
輸送機械には船舶や航空機も含まれますが、大部分が自動車やその関連部品といえるでしょう。また、自動車産業は海外現地生産化が大きく進んだことからその影響も大きいといえます。
日本企業にとって海外事業が活発な地域はどこか
最後に、どのような地域で海外事業が活発なのか、地域別の状況も確認しておきましょう。図4に海外現地法人の地域別売上高を示しました。
2023年の海外現地法人の地域別売上高を見ると、アジアが152.4兆円で全体の40.7%を占め、最も海外事業が活発な地域となっています。その中でも中国は57兆円と大きな規模となっています。
北米は、132.9兆円と全体の35.5%ですが、その大部分である124.0兆円を米国が占めています。海外事業における売上高の内、3分の1が米国によるものとなり、日本企業の米国との結び付きの強さがうかがえます。
欧州は53.5兆円で14.3%に過ぎません。欧州における海外事業が比較的少ないのは、商習慣や国民性の違い以外にも、物理的な距離も大きく影響しているかもしれませんね。また、地域別の常時従業者数シェアで見ると、2023年は532万人で、北米が79万人(うち米国は74万人)、アジアが348万人(うち中国は107万人)となっています。
日本企業の海外事業の特徴
日本企業では、貿易よりも海外事業が大きく拡大してきました。さまざまな産業で海外事業が拡大していますが、中でも自動車産業を中心とした製造業が大きなウェイトを占めています。日本国内では製造業の国内総生産や労働者数が縮小していることとは対照的な変化と言えます。
1985年のプラザ合意以降急激な円高が進み、日本で製造したモノやサービスは海外から見れば割高となっていました。このため、国内生産からの輸出よりも、海外生産化による合理化の方が優先して進められたとすれば、合点のいく話です。
今回ご紹介した海外事業は、自国企業の海外展開に関するデータです。貿易に輸出と輸入があるのと同様に、海外活動も自国企業が海外で事業を行う対外活動(Outward activity)と、他国企業が自国で事業を行う対内活動(Inward activity)の2方向があります。
近年では円安傾向が進み、日本は他の先進国と比較して相対的に安い国となっています。今後、貿易と海外事業のバランスも変化していくかもしれません。例えば、TSMCによる日本での半導体製造が話題となっていますが、これは外国企業の日本での生産活動ですので対内活動となります。
日本の海外事業は、対外活動は活発ですが、対内活動はほとんどなく、歪なグローバル化が進んでいるとされています。
次回は、そのような海外事業のバランスや日本の特殊性についてご紹介していきます。
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筆者紹介
小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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