BMIがリスクになるのは日本人だけ? 心不全の遺伝的特徴を解明:医療技術ニュース
千葉大学は、心不全のタイプごとに異なる遺伝的特徴を大規模ゲノム解析で解明し、心不全発症メカニズムの集団差や多遺伝子リスクスコア、TTN変異が予後予測に有用であることを示した。
千葉大学は2025年11月10日、日本人と欧州人の心不全患者を対象としたゲノム解析を実施し、心不全のタイプごとに異なる遺伝的特徴を体系的に明らかにしたと発表した。心不全発症メカニズムの集団差や、予後予測に有用な多遺伝子リスクスコア(PRS)、心筋症の原因遺伝子として知られるTTN遺伝子(タイチン遺伝子)の変異の重要性が示された。理化学研究所、九州大学、東京大学との共同研究による成果だ。
研究グループは、バイオバンク・ジャパンに登録された1万6251例の日本人心不全患者データを用い、収縮能低下型心不全(HFrEF)、収縮能保持型心不全(HFpEF)などのサブタイプ別にゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。その結果、日本人に特有の心不全関連遺伝子座5カ所を新たに発見し、国際共同解析などを組み合わせることで合計19カ所の新規遺伝子座を同定した。また、BMI(肥満度の判定に用いられる体格指数)が日本人でのみ心不全と関連するなど、欧州人との明確な遺伝的相違も確認された。
さらに、心筋細胞や心筋疾患に関連する遺伝子の一般的な変異が、心不全に関連することが明らかとなった。特に心疾患東アジア人に多いTTN遺伝子変異は、心不全の重症化や死亡リスクと関連することが判明した。これらの一般的な頻度の遺伝子変異は、従来の稀(まれ)な遺伝子変異を対象とする検査では見逃される可能性があり、新たなバイオマーカーとして有望視される。
研究グループが構築したPRSは、日本人の心不全リスクを高精度で推定し、若年発症や将来の心血管死を予測する指標として有用であることが示された。これにより、高リスク者を早期に抽出し、個別化された予防や治療戦略へつなげる可能性が広がる。
今回の成果は、日本人特有の遺伝的背景に基づく心不全精密医療の発展に寄与するものであり、今後の創薬や予後予測技術の高度化にも貢献すると期待される。
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