心臓血管系疾患の治療薬が骨を伸ばすことを発見:医療技術ニュース
京都大学らは、心臓血管系疾患の治療薬として使用されているホスホジエステラーゼ3阻害薬が、骨の伸長を促進することを発見した。骨系統疾患の新規治療薬の創出につながることが期待される。
京都大学は2025年6月9日、血栓症や心不全の治療薬として用いられているホスホジエステラーゼ3阻害薬(PDE3阻害薬)が、骨の伸長を促進することを発見したと発表した。立命館大学らとの共同研究による成果だ。
骨を伸ばす働きをするC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)は、軟骨細胞内カルシウムイオン(Ca2+)シグナルを活性化し、CNP受容体を刺激して、cGMPというシグナル分子の産生を促進することが知られている。
そこで研究グループは、cGMPを分解するPDEを阻害することで、CNPの活性向上やCNPと同様の効果を得ることが可能なのではないかと予想した。
まず、軟骨細胞における網羅的遺伝子発現解析を実施し、PDE3がcGMP分解に関与し、軟骨細胞で高発現していることを確認した。次に、PDE3阻害薬であるシロスタゾールを単離培養した軟骨に投与すると、用量依存的に軟骨の伸長を促進することが明らかとなった。
また、成長期の若齢マウスにシロスタゾールを投与すると、大腿骨などの骨が長くなり、体長も伸長した。なお、シロスタゾール以外にもPDE3阻害薬のミルリノン、アナグレリド、オルプリノンで同様の伸長促進作用が観察された。
PDE3阻害薬の軟骨細胞内Ca2+シグナルへの影響を調べたところ、CNPにより活性化されるシグナル経路と同じであることが示された。
さらにシロスタゾールには、軟骨無形成症モデルマウスから単離した骨を正常なマウスの骨と同程度まで伸ばす活性があることも確認した。さらに、CNPとシロスタゾールを同時に用いると、より少ない量のCNPでも骨を伸ばす効果が得られることが明らかとなった。
今回の研究成果は、低身長や骨の伸長阻害を示す骨系統疾患の新規治療薬の創出につながることが期待される。PDE3阻害薬は、心臓血管系疾患の治療薬として使用されており、ヒトでの安全性や体内動態が既に確立されている。一方で、現在は主に成人の治療に用いられている同阻害薬を、小児の骨系統疾患に使用できるかについては、さらなる検討が必要となる。
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