頭上のウイルスを高速除去、大空間向け深紫外LED殺菌技術を開発:医療機器ニュース
情報通信研究機構は、コンサートホール規模の大空間で浮遊ウイルスを安全かつ高速に不活性化する深紫外LED殺菌システムを開発した。上層空間のみに深紫外光を照射することで、客席の安全性を確保する。
情報通信研究機構(NICT)は2025年11月13日、コンサートホール規模の大空間中に浮遊するウイルスを安全かつ高速に不活性化する、深紫外LED大空間殺菌システムを開発したと発表した。高強度深紫外LEDの光をホール上部の空間だけに照射し、客席の安全性を確保しながら、空気中のウイルスを効率よく殺菌できることを示した。
深紫外LEDは、約200〜300nm(ナノメートル)帯の強い殺菌作用を持つ光を発し、特に265nm帯はウイルスのDNA、RNAの吸収ピークと重なる波長として注目されてきた。一方、安全性の観点から人体への直接照射は避ける必要があり、従来は筐体内部に空気を吸い込んで処理する方式が主流だった。しかしこの方式では流量に限界があり、コンサートホールのような大空間での空気殺菌は現実的でなかった。
今回のシステムでは、高強度深紫外LEDの配光角を精密に制御し、ホール上部の上層空間のみを狙って照射するモジュールを開発した。下層の観客席付近の空気は送風ファンで上層へと対流させ、上層で深紫外光を浴びることでウイルスを不活性化し、その後清浄な空気として再び下層に循環させる仕組みだ。
照射モジュールには、発光ピーク波長265nm帯の高強度深紫外LEDチップをマルチチップ実装し、放物面反射鏡と組み合わせた。これにより、光出力1.1Wクラスと垂直方向の半値全幅2度の高指向性を両立した。この狭い配光により、長い伝搬距離を経ても客席には深紫外光が届かず、上層空間のみに十分な照度を確保する。
開発したシステムを公共大型ホール「熊谷文化創造館さくらめいと 太陽のホール」(埼玉県熊谷市)に設置し、観客がいる状態での運用試験を実施した。
その結果、容積9200m3の同ホールにおいて、試験用ウイルスとして用いたヒトコロナウイルス229Eを99.9%不活性化するのに要する時間は42分と見積もられた。水銀ランプを用いた比較システムは150分だったことから、必要時間を72%短縮できることも示された。
この大空間殺菌システムにより、従来は難しかったコンサートホールなど、密閉された大空間でのエアロゾル感染リスク低減が現実的な選択肢となる。NICTは今後も深紫外光デバイス技術の高度化と社会実装を進め、将来のパンデミック対策を含む安心安全な社会づくりに貢献していく方針だ。
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