三菱ふそうは「水素で動く大型トラック」をなぜ2台発表したのか:Japan Mobility Show 2025
三菱ふそうトラック・バスは「Japan Mobility Show(ジャパンモビリティショー) 2025」において、ワールドプレミアとして水素エンジン搭載大型トラックと、液体水素搭載燃料電池大型トラックのコンセプトモデルを公開した。
三菱ふそうトラック・バスは2025年10月29日、「Japan Mobility Show(ジャパンモビリティショー) 2025」(プレスデー:10月29〜30日、一般公開日:10月31日〜11月9日、東京ビッグサイト)で、ワールドプレミアとして、水素エンジン搭載大型トラック「H2IC」と、液体水素搭載燃料電池大型トラック「H2FC」を発表した。
世界的にカーボンニュートラルへの関心が高まる中で、商用車でも電動化やクリーンエネルギー化が進められている。しかし、大型トラックの領域では、駆動させるために必要な電池容量やその重さが制約となり、電動化への移行が容易ではない。そこで水素の活用に期待が集まっている。
その流れを受け、三菱ふそうトラック・バスは今回、2種類の水素駆動の大型トラックコンセプトモデルを世界初公開した。
水素車両への円滑な移行を支援する「H2IC」
1つ目が、水素を燃焼させる内燃機関で駆動する水素エンジン搭載大型トラック「H2IC」だ。
「H2IC」は、ディーゼルトラックと共通のコンポーネントや技術を流用し、コスト面や運用面含め、水素駆動車両への移行を円滑に行うためのモデルだ。水素は圧縮水素ガスを燃料として使用し、走行距離は700kmとしている。特に高い出力が必要となる建設用車両用途などを想定している。
三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長/CEOのKarl Deppen(カール・デッペン)氏は「実績のあるディーゼルエンジンをベースとし、水素でも駆動できるように作り替えた。ただ、エンジン部品の80%は既存の流用ができる。コスト面でも実績面でも円滑な水素移行が可能になる」と強調する。
長距離走行や短い充填時間を強みとする「H2FC」
2つ目が、燃料電池システムで駆動する燃料電池大型トラック「H2FC」である。
「H2FC」は、燃料電池システムが水素を電力に変換し、電気モーターを駆動させて走行する燃料電池トラックだ。水素を液体状態で搭載し、最大1200kmの走行距離を実現している。また、15分以内での充填(じゅうてん)が可能で、高い運用性を持つ。ディーゼル車と同等サイズのリヤボディーが確保でき、水素対応による積載スペースへの制限もない。
H2FCは、国内初(同社調べ)のサブクール液体水素(sLH2)充填用の液体水素タンクを搭載している。液体水素を取り扱うがタンクに冷却装置は備えておらず「大きな魔法瓶に液体水素を入れるというイメージだ」(説明員)。sLH2充填技術は、ダイムラートラック、リンデ・エンジニアリングと共同開発している。液体水素を扱う上でこれまで課題であったボイルオフガス(蒸発した水素ガス)を再液化することで、排出する必要がなくなる。車両走行時もボイルオフガスの排出を削減する他、圧縮水素ガスを使用する際に水素ステーションに必要な設備なども大幅に簡素化できる。インフラコストの削減にも貢献する見込みだ。
液体水素の活用については、岩谷産業と協業しており、sLH2充填技術の確立を目指し、共同研究を進めている。また、sLH2充填技術は、ISO規格化に向けて議論も進んでいるという。
同時に水素駆動の大型トラックを2台発表した理由について、デッペン氏は「現時点でカーボンニュートラルに万能なソリューションは存在しない。社会にとって最適なソリューションを提供していくためには、複数の技術を展開する必要がある。水素インフラの整備や可用性、グリーン水素の価格やインフラの成長推移など、影響する要因にはさまざまなものがあり、それらはメーカーとしてコントロールできないものだ。そのため、水素駆動大型トラックを2種類開発する決断をした」と考えを述べている。
両機種ともコンセプトモデルの位置付けで、投入時期は未定。「技術的にはほぼ確立しているが、規制やインフラ面での課題が大きい。まずは実績のある駆動技術をベースとしたH2ICから普及が進むと見ているが、同時に液体水素関連の規則の整備などを働きかけていく。今後の動向次第ではあるが、将来的にはH2FCへの移行が進んでいくことが理想だ」(説明員)としている。
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