AI時代の製造業DXはデータが先かプログラムが先か、重要になるPLMの標準化:IVI公開シンポジウム2025秋(2/2 ページ)
IVIは「IVI公開シンポジウム2025-Autumn-」を開催。本稿では、IVI 理事長の西岡靖之氏が、IVIオピニオンとして講演した「ようやく見えたDXの本当の意味〜日本版インダストリー4.0の提案」の内容を紹介する。
IVIが取り組む「製造業PLM」の標準化
製造業において、これらの「マスターデータの整備」を進めていくためには、モノづくりの工程や各種プロセスを標準化し、共通データとして活用できるように「型」を作っていく必要がある。そこでIVIが現在取り組んでいるのが、「製造業PLMの標準化」だ。2025年6月に、国内のPLM開発企業らとともに、PLMを製造業全体に拡張した「製造業PLM」の共通モデルを作成し、国際標準として提案する活動を開始している。
PLMは、製品開発のサイクル全体を対象とし、企画から設計、生産準備、工場での量産に至るまで、生産プロセスも含めて統合的に管理するシステムだ。しかし、製品モデルを起点として作成された現在のPLMのモデルデータは、そのまま生産管理システムやERPなど他のシステムと連携させて活用することが難しかった。そのため、生産工程の情報をPLMなどのエンジニアリングデータと組み合わせて活用するために、BOP(Bill of Process、工程表)が注目されるようになったが、実際の工場の設備や生産ライン、治工具などは個別性が高く、デジタルデータとして表現し、管理することが難しかった。
そこで、IVIが取り組んでいるのが、これらの標準化への取り組みだ。IVIは“ゆるやかな標準”コンセプトに基づいて生産側の情報をBOA(設備構成表)モデルで統一的に表現し、これをBOPとともに製品のモデルと関係付けることで製造業PLMの実現を目指している。タスクフォースは、NEC、電通総研、図研、ビジネスエンジニアリングなどPLMソリューションを展開する国内企業が参加するとともに、マツダ、ブラザー工業など、ユーザー側企業も参加している。2025年12月までにドラフトを発行し、2026年の3月までに共通モデルをまとめる計画だ。
西岡氏は「国際標準として展開できるようにすることを想定している。具体的にはまずは主要ベンダーのBOPを比較し、共通化できるものを確認していく。これらの仕組みが整備できれば、マスターデータが蓄積でき、部門や企業を超えた連携も容易にできるようになる」と語っている。
製造業PLMのユースケースとしては現在4つを想定しているという。1つ目は「設計変更に対応した設備切り替えの効率化」だ。設備情報やこれらに関連する工程なども一元的に管理できるため、これらの変更が容易に行えるようになる。2つ目は「設備設計による製品バリエーション管理」である。設備の状態から逆にどういう製品だと負担なく製造できるかを管理側に示すことができる。3つ目は「生産拠点の統廃合や移管の計画立案」だ。異なる企業や拠点が持つBOMやBOPの統合が容易に行えるようになる。そして、4つ目が「ライフサイクル単位の投資収益計算」となる。一元的に情報を管理できるため精度の高い収益計算が可能となる。
西岡氏は「従来の情報システムは1つに統合すべきだといわれてきたが、その常識は変わりつつある。マスターデータを核にデータを活用できる基盤があれば、必ずしもシステムそのものを1つに統合する必要はなく、個別化が認められる新しいシステムアーキテクチャとなる。そのためにも、基軸となるマスターデータの整備や、プロセスの標準化は重要だ」と考えを述べている。
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