自社オリジナル製品のシーズ探しから量産するまでのステップ【後編】:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(16)(3/3 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第16回は、前回に引き続き、スタートアップが自社オリジナル製品を作ると決めてから量産を開始するまでの流れを紹介する。
ステップ12 〜量産開始〜
いよいよ量産の開始だ。ただし、最初の量産セット数が50台であったとしても、いきなり全てを組み立てることはない。これまでの試作セットは、製品の設計内容を熟知した設計者などが組み立てているケースが多いが、量産ではその製品を初めて見る作業者が組み立てを担当する。
その製造現場には、この製品のために新たに作成されたQC工程表、作業標準書、治具などが用意されている。これらが新しい製品を確実に組み立てられる状態になっているかを確認するために、PP(Pre-Production:先行生産)を行う必要があり、50台のうち3〜5台程度で実施する。
スタートアップは、このPPのタイミングで必ず製造現場に立ち会ってほしい。基本的には、承認製品と同じ製品が組み立てられるはずだが、現実にはそうならない場合も多く、PPの段階になって初めて見る部品が出てくるケースもある。なぜなら、量産開始ギリギリに完成する部品が存在することもあるからだ。
PPの製品の確認方法はODMメーカーによって異なるが、問題なしと判断されれば、正式に量産が開始される。
まとめ
製品化のステップは多く、日程も長期間にわたる。その内容は必ずしも難易度の高いものばかりではなく、淡々とこなしていく作業が多い。例えるなら、100以上の碁盤状のマス目を、順番に埋めていくようなものである。筆者は「Excel」で1日単位の日程表を作成し、順番にこなしていった。もちろん、状況に応じて柔軟に変更していく姿勢も求められる。製品設計では、こうした淡々とした作業を継続する力が重要だ。
また、ODMメーカーとの関わりは長く続く。互いに話し合った内容は忘れてしまうことも多いため、議事録の作成はもちろん、すべきこと/決めたことをリストとして記録し、共有しておくことが望ましい。筆者はExcelで「やることリスト」を作成している。世の中にはプロジェクト管理ツールが多数存在するが、結局のところExcelが最も使いやすいと感じている。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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