核融合発電の基礎と開発の最前線――未来エネルギーを支える技術と素材とは:ITmedia Virtual EXPO 2025 夏 講演レポート(3/3 ページ)
「ITmedia Virtual EXPO 2025 夏」において、自然科学研究機構 核融合科学研究所/総合研究大学院大学の高畑一也氏が「核融合発電の基礎と開発の最前線−未来エネルギーを支える技術と素材」と題して行った講演から抜粋して紹介する。
ITERとは
ここまで説明してきた実験装置には水素もしくは重水素を使っており、実燃料の三重水素は使用していない。次の段階で重水素と三重水素の混合ガスを入れて実際に核融合反応を起こす実証機が必要となる。
その実証機として現在ITER(イーター)という大規模(直径28.6メートル)な装置を欧州、日本、米国などが協力して製造している。2034年完成予定で2039年に実際に重水素の混合ガスを入れて燃焼実験を行う計画だ。核融合出力は500MW(加熱電力50MW)で、エネルギー増倍率(Q)が10となり(ここでは電力は発生しない)、磁場閉じ込め方式において世界初のエネルギー増倍率が1を超える実証機となる。
その次の段階として電力を発生する核融合炉の開発に移る。核融合炉はプラズマ実験装置にブランケットという金属壁を取り付けたものとなる。プラズマに重水素の混合ガスを入れて核融合反応が起きると、そこから中性子が発生する。真空容器とプラズマの間に設置した壁状のブランケットで中性子を吸収。中性子は熱に変わりブランケットの温度が500℃程度に上昇する。そこに冷却材を流して、その熱を外に取り出し、水を沸騰させて蒸気を作る。この蒸気でタービン発電機を回し、発電をするというのが核融合発電の原理だ。
また、ブランケットにはもう1つの大きな役割がある。リチウムをブランケット内に置き、核融合反応で発生した中性子を当てることで核反応によりヘリウムと三重水素を生産する。ここでできた三重水素を分離して燃料として使う。つまり、核融合炉の外からみると燃料資源は重水素とリチウムということになる。高畑氏は「重水素とリチウムは海水中など天然に豊富に存在することから燃料資源としては無尽蔵といえる」と述べた。
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