PPと竹の複合材料を開発、カーボンフットプリント削減と従来品以上の性能を実現:材料技術
化石燃料由来の材料の製造などに伴うCO2排出量は、カーボンニュートラル実現を阻む課題だ。そこで、矢崎総業の米国完全子会社であるYTC Americaは、CO2を内部に保持できる竹のフィラーとポリプロピレン(PP)を組み合わせた「PP/竹複合材料」を開発した。
矢崎総業の米国完全子会社であるYTC Americaは2025年10月10日、竹のフィラー(充填剤)とポリプロピレン(PP)を組み合わせた複合材料(以下、PP/竹複合材料)を開発したと発表した。今後は同年内の実用化を目指す。
さまざまな地域で複合材料に適した竹を選定
PPとタルクやグラスファイバーの複合材料など、以前から用いられている化石燃料由来の樹脂材料は、高い信頼性と性能を備えているが、製造などに伴い発生するCO2排出量が課題だ。この課題は、政府が推進する2050年のカーボンニュートラル実現と、自動車分野でのサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進する上で障壁となっている。
そこでYTC Americaは、従来のPPとタルクの複合材料の代替品として、PP/竹複合材料を開発した。
PP/竹複合材料は、植物性フィラーの利用により樹脂を減らす効果がある他、竹が吸収したCO2を内部に保持できるため、約50%のカーボンフットプリントを減らせる。従来品と同等以上の機械的性能も実現する。加えて、引張強度と曲げ強度は、比較対象のPP/タルク複合材料と同等だ。衝撃強度、伸び、曲げ弾性率、熱たわみ温度(HDT)など、他の特性はPP/タルク複合材料を上回る。
国内外に分布している竹は、一般的な木材の4倍以上の炭素を吸収しながら、急速に成長する。これらの特徴により、安全で費用対効果が高く、炭素排出量への影響を抑えたサプライチェーン構築が可能だという。国内外には約1700種の竹が存在している。
YTC Americaはこれらを分析し、日本の孟宗竹やコロンビアのグアドゥアなど、さまざまな地域で複合材料に適した候補を選定した。国内でも、かつては生活資材として活用されていたが、近年では管理が行き届かず「放置竹林」として拡大し、近隣の森林や景観への影響が問題となっている。こういった状況を踏まえ、竹を活用した複合材料の開発は、環境負荷の低減だけでなく、社会的課題の解決にもつながるという。
PP/竹複合材料の開発には、天然繊維特有の吸湿性や親水性による接着の難しさなどの技術課題があった。しかし同社は、継続的な研究開発により、天然由来の添加剤の選定と樹脂/竹の接合最適化に成功し、優れた機械的特性を持つ複合材料を開発した。さらに、臭気や可燃性といった天然繊維複合材料の一般的な課題についても、自動車向けの厳しい基準を満たしている。
既存のPPあるいはPP/タルク材料をPP/竹複合材に置き換えることで、カーボンフットプリントの削減が効果的に見込めるという。そのため、同社では自動車部品や保護部材などへの活用を検討している。
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