三菱重工とQSTが核融合炉「ITER」重要部品の初号機を完成:材料技術
核融合発電実現に向け一歩前進した。三菱重工業と量子科学技術研究開発機構(QST)は、南フランスで建設中の核融合実験炉「ITER」の重要機器「ダイバータ」の構成要素、外側垂直ターゲットの実機初号機を完成した。
三菱重工業(以下、三菱重工)と量子科学技術研究開発機構(QST)は2025年10月2日、南フランスで建設中の核融合実験炉「イーター(以下、ITER)」に用いられる、ダイバータの重要な構成要素である「外側垂直ターゲット」の実機初号機の製作を完了したと発表した。
両者は、2020年6月に外側垂直ターゲットの製作を開始し、2024年7月には実機大のモックアップとなるプロトタイプ機が完成。そこで培った製作/検査に関する知見/経験を生かし、日本企業のみで今回の初号機完成に至っている。
2025年度から順次納入を開始
ダイバータは、トカマク型核融合炉をはじめとする磁場閉じ込め方式の核融合炉における最重要機器の1つだ。核融合反応を安定的に持続させるため、炉心プラズマ中の燃え残った燃料および核融合反応で生成されるヘリウムなどの不純物を排出する役割を担う。
ダイバータの熱負荷は、最大で20MW/m2に達する。これは、小惑星探査機が大気圏に突入する際に受ける表面熱負荷に匹敵し、スペースシャトルが受ける表面熱負荷の約30倍に相当する。ダイバータは、トカマク型装置の中で唯一、プラズマを直接受け止める機器で、プラズマからの熱や粒子の負荷などにさらされる厳しい環境下で使用される。
そのため、高融点であるものの難削材であるタングステンなどの特殊な材料が用いられる。さらに、プラズマ対向面には微小な形状加工を施している。加えて、全体形状とともに、個々のプラズマ対向材の傾斜、段差、隙間の加工には0.5mm以下の精度が必要となるなど、高精度の製作/加工技術が求められる。
QSTは高い研究開発力を背景に、ITER計画の当初からダイバータの研究開発に注力しており、三菱重工の優れた製造能力を生かして、ITERの炉内機器の中で製造が困難とされるダイバータの構成要素である外側垂直ターゲットの製作に取り組んでいる。
これまでITER向けの主要機器であるトロイダル磁場コイル(TFコイル)の製作にも取り組み、2023年までに日本分担分全てのTFコイルとなる9基を出荷した。三菱重工はこのうち5基の製作を担った。三菱重工は、QSTがITERに納入するダイバータの外側垂直ターゲット58基のうち、初号機を含め実機製作が進む38基全ての製作を担当している。今回製作を完了した初号機を端緒として、2025年度から順次納入を開始する予定だ。
ITER計画は、核融合発電の実現に向け、科学的/技術的な実証を行うことを目的とした大型国際プロジェクトだ。日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7カ国が参加しており、核融合燃焼による本格運転を目標に、ITERの建設をフランスのサン・ポール・レ・デュランス市で進めている。日本はダイバータやTFコイルをはじめ、ITERにおける主要機器の開発/製作などの重要な役割を担っており、QSTがITER計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進している。
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