パナソニック エナジーはアノードフリーで1kWh/Lを実現、全固体電池も市場投入へ:モノづくり最前線レポート(4/4 ページ)
「BATTERY JAPAN 秋 第19回 国際二次電池展」の基調講演にパナソニック エナジー CTOの渡邊庄一郎氏が登壇。同氏は、コロナ禍以降に車載リチウムイオン電池で攻勢を強める中国勢に対して、パナソニック エナジーが技術開発や生産体制の整備、人材育成、脱炭素対応などでどのような取り組みを進めて対抗しているかについて説明した。
北米工場での生産の質の変化とCFP削減への取り組み
パナソニック エナジーは、2017年に米国ネバダ州リノにギガファクトリーを建てて車載リチウムイオン電池の生産を始め、2025年7月には米国カンザス州デソトで新たな工場が稼働を開始した。カンザス工場の広さは、基調講演が行われた展示会の会場となった幕張メッセのホール1〜8の約2倍に相当する。渡邊氏は「巨大な工場を作り、物を動かさねば、このバッテリー事業は勝負できない」と語る。
2017年の設立当初は取り組みが思い通りに進まずに、月間の生産数も非常に低い水準で推移し、多くのロスも排出した。その後は改善に向けた多様な取り組みを継続的に進めていき、約8年間経過した現在のロス率は設立当初に比べ7分の1まで削減できている。生産数量も計画通り出せるようになり、円筒形電池セルを1日当たり630万個生産できる体制を構築した。2024年度の北米での生産能力は、車載向けで116GWhという市場規模に対して約30%を超える比率になっている。
渡邊氏は「1日630万個という生産規模に対して、正極材料180トンと負極材料80トンを毎日電池セルに加工して出荷を行っており、北米電池事業の規模の大きさを感じることができる。『シェアが落ちた』といわれるが、毎日これだけのモノが動いていることを知ってほしい。モノづくりは非常に高速に稼働する生産設備でやっており、工場内の生産ラインの大きさは先まで見通せないくらいの規模感だ」と述べる。
環境面では、電池のCFP(カーボンフットプリント)を2030年度までに2021年度比で半減するという目標を掲げ、取り組みを進めている。サプライヤーとの連携による材料部分のCFP削減と、工場での生産プロセスにおける削減を進めた結果、2025年時点で約20%のCFP削減を達成した。今後は2030年までに多くの会社と協力関係を結びながら、さらなるCFP削減を進めていく。
渡邊氏は北米工場について「非常に筋肉質な生産システムで、累計125億セルを生産し、リコールなく運営している。特にお伝えしたいのは、従業員の定着率である。北米で電池産業を定着させるのは本当に苦労し、当初の年間定着率50%から現在は95%以上になった。CFP20%削減など多様な取り組みが進み、今回カンザス工場も稼働を開始したので、われわれは世界最強の生産システムを持っていると自負している」と述べた。
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