生成AIが“真のデジタルツイン”のカギに、モノづくりプロセスはどう変わる?:デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(7)(3/3 ページ)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。第7回となる今回は、生成AIおよびフィジカルAIの進化と、モノづくりプロセスの変化について解説する。
デジタルツインの生成自体をAIで行う
また、デジタルツインの空間生成自体についても、AIによって効率的に行えるようになってきた。その一例が、Generative Designや、CAD AI Agentなどの設計デジタルツインだ。設計ソフトウェアであるCAD/PLMソリューションにAIエージェントが組み込まれ、既存設計のアウトプットに対し、自然言語の指示を通じて調整できる機能が搭載されつつある。
例えば、CAD/PLM企業大手であるフランスのDassault Systemesは、AIコンパニオンのAuraをCADシステムに搭載し、ユーザーは自然言語で設計3Dデータの調整などを行える。同社は「Generative Economy」を提唱しており、3D設計やデジタルツインにおいてもAIによる生成の流れが進む可能性を示している。
加えて、産業用途でも利用されるUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンにおいても、生成AIにより自然言語での指示で、3D環境、周囲環境、登場人物などを生成できるようになっている。今までは3D環境を構築しようとしても人的リソースの問題で構築できないこともあったが、これらの環境そのものの構築や調整をAIで実施/支援が行えるようになったことで、CPS(産業メタバース×デジタルツイン)の展開がより容易になる。
オペレーションデジタルツインを通じたラインビルダーの変化
生成AI活用により、デジタルツインがエンジニアリング段階だけではなく、オペレーション段階もつなげられるようになる。その中で、FA(製造業の自動化を支援する企業:Factory Automation)やラインビルダー(製造業のライン導入を支援する企業)の戦い方も変化する。
従来のラインビルダーは、顧客企業にライン導入を行う際にデジタルツインでライン設計を行い、その設計結果とともに製造ラインを据え付け、納入してきた。あくまでもエンジニアリング段階でのツールとしてデジタルツインを活用し、その後にそのデジタル環境を活用することは少なかった。
しかし、これが変化しつつある。欧米で展開するグローバルラインビルダーやFA企業は、顧客のライン設計を行ったデジタルツインにIoTデータやPLC制御データなどを接続し、顧客の製造ラインの遠隔管理を行うケースが増えてきている。
遠隔で顧客の製造を支援しつつ、そこで収集されるIoTデータや制御データはAIで分析することで随時顧客に対して支援を実施できるようにしている。ラインビルダーやFA企業は従来メンテナンスや、顧客からの問い合わせ時以外は、顧客のラインや製造状況に触れる機会を持ちづらかったが、遠隔管理サービスを通じてそれ自体がコアな収益源になるとともに、顧客のライン状況を継続的にモニタリングし次ラインの提案につなげる武器としているのだ。
次回は、フィジカルAIやEmbedded AI、ヒューマノイドロボットの進化について解説する。
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒連載「インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略」はこちら
⇒連載「加速するデータ共有圏と日本へのインパクト」はこちら
筆者紹介
小宮昌人(こみや まさひと)
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施。
(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援
専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム/リカーリング/ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
- 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
産業メタバースで変わりゆく都市づくり、進むスマートシティ構築の未来(後編)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。融合するメタバースとデジタルツイン、その先にある産業と都市の3つの変化
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。製造業こそ「メタバース」に真剣に向き合うべき
2022年は「メタバース」に関するさまざまな技術やサービスが登場すると予想されます。単なるバズワードとして捉えている方も多いかと思いますが、ユースケースをひも解いてみると、モノづくりに携わる皆さんや設計者の方々にも深く関わっていることが見えてきます。一体どんな世界をもたらしてくれるのでしょうか。AIが同僚に? マイクロソフトが産業用AIエージェントで示す新たなモノづくり
Microsoft(マイクロソフト)は世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE) 2025」において、ローコード/ノーコードで作れる産業用AIエージェントをはじめとしたAIソリューションを公開。AIの“同僚”によって効率化される製造業界の姿を提示した。デジタルツインを「モノづくり」と「コトづくり」に生かす
製造業に大きな進歩をもたらすデジタルツインの姿について事例から学ぶ本連載。第3回は、生産やサービスの局面におけるデジタルツインについて説明する。91.9%のメタバースビジネスが失敗、原因となる13のポイントを解説
クニエは、メタバースの事業化を経験した500人を対象に実態調査したレポートを公開した。事業化に失敗した割合は91.9%にのぼり、失敗するメタバースの特徴とともに成功のための提言を解説している。いまさら聞けない「デジタルツイン」
デジタルツインとは何か? 注目を集めるようになった背景や事例、製造業にもたらす影響などを取り上げ、デジタルツインについて分かりやすく解説する。